ドラマティック トレイン ~ 運命の出会いは通学中に起きる
気持ちを沈めて矢を手に取ると弓を引き的を狙う。
しっかり狙いを定めて矢を放つ。

『パァーーーンッ』

 くそっ!!!

的にあたるのだが、なかなか中心を射ることができずイライラする。いつもならすでに数回は中心に当たっているはずなのに…。普段と違って大きく的外しまくっていた。

「意外と下手なんじゃね?」

部活の見学にきていた葵は田辺にコッソリ言ったつもりのようだが、しっかりコチラまで聞こえていた。

「聞こえてるぞ、葵。」

葵が見てるからって精神ぶれすぎだ。何故かコイツには馬鹿にされたくないというか下に見られたくないというか…。コイツが見てるとなんだかよくわらからなきプレッシャーを感じた。

「いやいや、矢を放って的の方まで飛ばすのも意外と大変なんだぞっ!」

田部がフォローしてくれているが、そんなの関係なしにして俺の実力を見せつけたかった。それなのに…。

「耕史せんぱぁい!少し休まれたらどうですか?ハイ!お水です!」

松田がペットボトルの水をタオルと共に渡して来た。

「ありがとう。」

水を一口飲むとまた松田に渡した。松田が俺に構うのには実はちゃんと理由がある。それは周りが噂しているようなことではないのだが本人が何も言わないからそのまま放置していた。

「あれが噂の??」

「そうそう。愛理ちゃん。可愛いよなぁ〜。いい匂いがしそう。」

俺によってきた松田に気づき葵が田辺に聞いていた。田辺は松田の女の子らしい容姿にうっとりしていた。

「キモッ!……そうだな。俺の好みじゃないけど可愛いな。」

「田辺は愛理ちゃんと付き合いたいって思わんの??」

「俺なんか無理、磐田にべったりだし!それに磐田レベルの顔面偏差値がじゃないと釣り合わないって!葵ならいけるんじゃね?」

「俺は心に決めた子がいるから〜。」

「あぁー、さっき話してた幼なじみ?」

「そうそう、昔から大好きなんだ。」

そう言うと葵はチラリとこちらを見たので一瞬目が合う。だが、そんな葵を無視して矢を手にとって次の体制に入る。

「告らないの?」

「帰国してからアピールはしてるんだけど、あいつ鈍いから気づいてくんないの。何度もキスはする仲なんだけどねぇ〜。」

「キスしても気持ちに気づかない女ってどれだけ鈍いんだよ(笑) てか、お前帰国子女だから欧米の挨拶程度のキスと思われてんじゃねーの?」

「キスしたのは挨拶の頬だけじゃないんだけどね〜〜…。」

葵はこちらを見ながら話を続け、最後にニヤリと口角をあげた。

『スカンっ!』

 やばっ…。

的をガッツリと外してしまい、思い切り気の抜けた音が弓道場に漂って一瞬道場内にいた人間の全ての手が止まる。

 …どうした俺?
 的を大きく外したのは、葵が奈々ちゃんとキスした話が聞きこえたせいか?
 俺が奈々ちゃんに寄せている感情は癒やしキャラ的な位置であって…、ペットを愛でるような気持ちであって…。
 そもそも、恋愛なんて今の俺には無縁でなければいけない。

「ごめん、調子悪いみたいだから今日はもう帰るわ。」

葵と田辺に声をかけると使っていた道具を片付け始めた。

「えーーっ、耕史先輩、帰っちゃうんですか〜。愛理ぴえんです〜。」

「松田は他の部員を頼んだよ。」

そう言って更衣室へ向かう。

 葵が近くにいるとなんか気持ちが落ち着かん。
 変に焦った気持ちになったり、イライラしたり…。

 俺、あいつのことが嫌いなのか??

汗を拭って制服に着替えながら思った。

 でも、葵とは話が合うし気も合うし…。嫌悪感はない。

さっさと着替えを終え、袴で膨れたカバンを学生カバンと一緒に手に持ち弓道部用の更衣室を出ると葵が待っていた。

「田辺はそのまま最後まで部活続けてから帰るって。電車途中まで同じなんだから一緒に帰ろうぜ。」

「あぁ。」

 コイツ、奈々ちゃんの家の隣に住んでるって言ってたな。なら、奈々ちゃんといつも別れるところまで同じなのか…。

正門を出て最寄り駅まで歩きながら学生カバンからペットボトルのお茶を取り出し、ひとくち口に含んだ時だった。

「なぁ……お前。俺と奈々がキスした話が聞こえて動揺した?」

『ブっっっ!!!!』

思い切りお茶を吹き出してしまった。

「…動揺してんな。やっぱ、お前奈々のこと好きなんじゃね~か?」
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