ドラマティック トレイン ~ 運命の出会いは通学中に起きる
「葵、ちょっと一緒にトイレ行かない?」
今、取ってきたばかりのデザートをのせたお皿をテーブルに置いて葵を誘う。
「は?二人でトイレって女子かよ。」
チラッと親父たちの席を見ると何かを察したのか葵は席を立ち、『しゃーねーなぁー。』と一緒に来てくれた。
ここのレストラン内にお手洗いはないようで、店を出てホテル共通のお手洗いまで男2人で歩く。
「トイレって嘘なんだろ。」
トイレの入り口までくると葵が言った。
「分かってんじゃん。さすが葵。」
こいつの察しの良さやあとくされが無い態度は人間として、友達として好きだと思う。
トイレ前に置かれているコンパクトだが高級ホテルらしい待ち合わせ用のソファに腰を掛けた。
「俺の昔話、少し聞いてくんない?」
「何だよ突然。あの後輩ちゃんに関わること?」
そう言うと葵は隣に座り、俺は黙って頷いた。
「俺、松田とは中学の時に塾で知り合ったんだけどさー。その頃から俺って意外とモテてさー。」
「なんだよ、いきなりモテ自慢か?俺だってそのくらいの年からモテてたわぁ〜。」
負けじとモテ自慢をする。
「それは嘘だな、アジア人がアメリカでモテるとは思えん。」
「そんで?学校でよく耳にする後輩ちゃんの黒い噂と関係あんだろ?」
「あぁ…。さすが察しが良いな。塾で女の子たちの熱い視線をいつも感じてたのに、急に女子に避けられ始めたんだ。どうやら、俺の事を好きって言うと松田が人気のないところに呼び出して俺に近づくなって脅すらしいんだよ。塾には勉強しに来ていたわけで、別にモテたいわけじゃなかったし、そんな女子のトラブルに巻き込まれたくなかったからそのまま放置してたわけよ。ある時、塾のクラス替えがあって、俺にもついに気になる女子が現れて…。その子もなんとなく俺の事を意識してる感じがしたんだ。」
「両想いって奴か?で、その子とは付き合ったの?」
「いや、席が隣になったり、仲良くなり始めたころ、普段、早めに教室に入って予習している彼女がいつもの時間に珍しくクラスに入ってこなくて…。心配してたら松田に呼び出されてどこかに行ったって耳に入ってきて…。」
ここまでは良くある話。問題はここからだ。
「人気のないところに呼び出すって聞いてたから塾のビルの人気のない路地に行ったら…。」
思い出すだけで吐き気がして言葉がうまく出てこない。しかし、葵は話の続きを催促せずに俺の言葉を待っててくれた。
「道路からの死角にはいったところに松田と数人の大人の男がいてさ…。その正面には俺に好意を持ってくれていた彼女が半裸で立たされてスマホで写真を撮られてたんだ。」
「それって…、犯罪じゃねーか。」
「…そう。犯罪なんだ。だけど、大人の男の腕や体からは刺青がチラチラ見えてて…。オシャレなタトゥーとかじゃなくてヤクザがするような和彫り。だから、俺、めちゃくちゃビビってて…。」
怖くて何もできなかったあの時の自分を懺悔するように葵に話を続ける。
「俺…とりあえず、彼女に自分の上着を着せてその場から逃がしたんだけど、松田に『こうなったのはお前のせいだ。』って『自分と付き合わないと同じ事を繰り返す』って言われて、ヤクザっぽい男達に囲まれながら捲し立てられたんだ。ひとまず受験を言い訳に彼女を作る気はないって言って誤魔化したんだ。受験が終わって塾を辞めれば松田との縁は消えるだろうって安易に思ってた。実際、被害にあった女の子は塾を辞めて俺から離れたら彼女からの嫌がらせが無くなったって言ってたし…。」
「はぁーー…。縁がきれたと思ったのに同じ高校に入学して未だに捕り付かれてるわけか…。」
「そーゆー事。因みに、その時にメンタルやられて、俺、補欠合格だったんだ。そのあたりから親父に首席で合格した兄貴と比べられるようになって、俺は常にクズ扱い(笑)」
「耕史が後輩ちゃんを悪く言わないのは背後にいる大人が怖いからってことか?」
「そんな感じ。情けないよな…。今は将来の夢がかなうまでは彼女作らないって引き延ばしてる。ついでに他に好きな男ができたらそっちに行けって。」
「そんなんで後輩ちゃんは納得してんの?」
「…とりあえず、今はね…。」
「…で?この話を俺にした理由は??」
「分かってるんだろ?」
「なんとなく。でも、お前の口からちゃんと聞きたい。」
「はぁ…。お前には悪いが、俺、すっかり恋に落ちた。奈々ちゃんのこと女の子として好きなんだ。もう、癒しキャラのポジションに置いておけなくなった。」
「俺にしてたみたいに、奈々を好きな事を隠してればいいじゃんか。」
「それがもう無理みたいなんだ。無意識に彼女を目で追ってしまうくらい…。このままじゃいくら気持ちを隠しても、いつか松田に気づかれそうで怖い。」
「そん時は一緒に奈々を守れってことか?」
「あぁ。そうだ。お願いしたい。」
「奈々を守るのはいいが、後輩ちゃんとのことは自分で何とかしろよ。」
「このままじゃダメだって分かってる。まずは話聞いてくれてありがとな。」
「ばーか、俺が話を聞いただけじゃ何も解決できてないんだから『ありがとう』なんて言うな。」
それでも、今まで一人で抱えていたことを葵に話すことができて味方ができたと心強くなった。
「俺、葵と知り合えてよかったよ。」
「俺は帰国したら奈々の近くに耕史がいて嫌だったけど?」
と言われ互いに笑った。
今、取ってきたばかりのデザートをのせたお皿をテーブルに置いて葵を誘う。
「は?二人でトイレって女子かよ。」
チラッと親父たちの席を見ると何かを察したのか葵は席を立ち、『しゃーねーなぁー。』と一緒に来てくれた。
ここのレストラン内にお手洗いはないようで、店を出てホテル共通のお手洗いまで男2人で歩く。
「トイレって嘘なんだろ。」
トイレの入り口までくると葵が言った。
「分かってんじゃん。さすが葵。」
こいつの察しの良さやあとくされが無い態度は人間として、友達として好きだと思う。
トイレ前に置かれているコンパクトだが高級ホテルらしい待ち合わせ用のソファに腰を掛けた。
「俺の昔話、少し聞いてくんない?」
「何だよ突然。あの後輩ちゃんに関わること?」
そう言うと葵は隣に座り、俺は黙って頷いた。
「俺、松田とは中学の時に塾で知り合ったんだけどさー。その頃から俺って意外とモテてさー。」
「なんだよ、いきなりモテ自慢か?俺だってそのくらいの年からモテてたわぁ〜。」
負けじとモテ自慢をする。
「それは嘘だな、アジア人がアメリカでモテるとは思えん。」
「そんで?学校でよく耳にする後輩ちゃんの黒い噂と関係あんだろ?」
「あぁ…。さすが察しが良いな。塾で女の子たちの熱い視線をいつも感じてたのに、急に女子に避けられ始めたんだ。どうやら、俺の事を好きって言うと松田が人気のないところに呼び出して俺に近づくなって脅すらしいんだよ。塾には勉強しに来ていたわけで、別にモテたいわけじゃなかったし、そんな女子のトラブルに巻き込まれたくなかったからそのまま放置してたわけよ。ある時、塾のクラス替えがあって、俺にもついに気になる女子が現れて…。その子もなんとなく俺の事を意識してる感じがしたんだ。」
「両想いって奴か?で、その子とは付き合ったの?」
「いや、席が隣になったり、仲良くなり始めたころ、普段、早めに教室に入って予習している彼女がいつもの時間に珍しくクラスに入ってこなくて…。心配してたら松田に呼び出されてどこかに行ったって耳に入ってきて…。」
ここまでは良くある話。問題はここからだ。
「人気のないところに呼び出すって聞いてたから塾のビルの人気のない路地に行ったら…。」
思い出すだけで吐き気がして言葉がうまく出てこない。しかし、葵は話の続きを催促せずに俺の言葉を待っててくれた。
「道路からの死角にはいったところに松田と数人の大人の男がいてさ…。その正面には俺に好意を持ってくれていた彼女が半裸で立たされてスマホで写真を撮られてたんだ。」
「それって…、犯罪じゃねーか。」
「…そう。犯罪なんだ。だけど、大人の男の腕や体からは刺青がチラチラ見えてて…。オシャレなタトゥーとかじゃなくてヤクザがするような和彫り。だから、俺、めちゃくちゃビビってて…。」
怖くて何もできなかったあの時の自分を懺悔するように葵に話を続ける。
「俺…とりあえず、彼女に自分の上着を着せてその場から逃がしたんだけど、松田に『こうなったのはお前のせいだ。』って『自分と付き合わないと同じ事を繰り返す』って言われて、ヤクザっぽい男達に囲まれながら捲し立てられたんだ。ひとまず受験を言い訳に彼女を作る気はないって言って誤魔化したんだ。受験が終わって塾を辞めれば松田との縁は消えるだろうって安易に思ってた。実際、被害にあった女の子は塾を辞めて俺から離れたら彼女からの嫌がらせが無くなったって言ってたし…。」
「はぁーー…。縁がきれたと思ったのに同じ高校に入学して未だに捕り付かれてるわけか…。」
「そーゆー事。因みに、その時にメンタルやられて、俺、補欠合格だったんだ。そのあたりから親父に首席で合格した兄貴と比べられるようになって、俺は常にクズ扱い(笑)」
「耕史が後輩ちゃんを悪く言わないのは背後にいる大人が怖いからってことか?」
「そんな感じ。情けないよな…。今は将来の夢がかなうまでは彼女作らないって引き延ばしてる。ついでに他に好きな男ができたらそっちに行けって。」
「そんなんで後輩ちゃんは納得してんの?」
「…とりあえず、今はね…。」
「…で?この話を俺にした理由は??」
「分かってるんだろ?」
「なんとなく。でも、お前の口からちゃんと聞きたい。」
「はぁ…。お前には悪いが、俺、すっかり恋に落ちた。奈々ちゃんのこと女の子として好きなんだ。もう、癒しキャラのポジションに置いておけなくなった。」
「俺にしてたみたいに、奈々を好きな事を隠してればいいじゃんか。」
「それがもう無理みたいなんだ。無意識に彼女を目で追ってしまうくらい…。このままじゃいくら気持ちを隠しても、いつか松田に気づかれそうで怖い。」
「そん時は一緒に奈々を守れってことか?」
「あぁ。そうだ。お願いしたい。」
「奈々を守るのはいいが、後輩ちゃんとのことは自分で何とかしろよ。」
「このままじゃダメだって分かってる。まずは話聞いてくれてありがとな。」
「ばーか、俺が話を聞いただけじゃ何も解決できてないんだから『ありがとう』なんて言うな。」
それでも、今まで一人で抱えていたことを葵に話すことができて味方ができたと心強くなった。
「俺、葵と知り合えてよかったよ。」
「俺は帰国したら奈々の近くに耕史がいて嫌だったけど?」
と言われ互いに笑った。