Honey Trap



「は、美千香が?」

「え、うちらが言われることはあっても、清水さんがなに言われんの?」

「もう少し点数取れただろ、って。買い被りすぎよね」

「うわ、キツ。なんかさ、話しやすいし分かりやすいしかっこいいけど、稲葉先生って意外と厳しいよね」

「分かる分かる。前も課題忘れ、取りに帰らされてたよね?」


私の答えに、彼女たちは好き勝手に話し始める。

他人の話題なんて、彼女たちにしてみれば話のネタのひとつに過ぎない。

芸能人のゴシップと大差ないのだ。


最早、最初の会話から逸れに逸れて着地点がどこか分からなくなっていた時。


「おーい、井上」


昼休みの喧騒の中で、里央を呼ぶ声がやけに鮮明に聞こえる。


「あ、和田くんじゃん」


それに里央ではなく廊下側を向いて座っていた1人が反応すると、すでに彼は私たちの机のわきに立っていた。

なるほど、道理で声が近いわけだ。



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