強烈な旦那様♡おバカなカメ
それから少し話して、李範がレジャーシートから立ち上がる。
「すみません、もう失礼します」

「えー!もう少し、話しましょうよ!」

「でも、嫁さんが待ってるので」

「奥さんの話とか聞かせてくださいよー」
「聞きたーい!」

「すんません」
李範は、軽く一礼しその場を去った。


夏菜に“今から帰る”とメッセージを送る。

「━━━━円さん!」
後ろから、声をかけられた。

花見に来ていた、クライアントの会社社員だ。

「少し、お時間いただけません?」
「すんません」

「えー!じゃあ…せめて、これ…」
そう言って、名刺を渡される。

「は?」
名刺に、プライベートのSNSのIDが書いてあった。

「私、奥さんいても大丈夫なんで!」
意味深に見上げてくる。

その言葉を聞いた瞬間、李範を纏っていた雰囲気が黒く落ちた。

「え………」
ビクッと、震え後ずさる社員。

「貴様が大丈夫でも、俺は大丈夫じゃねぇ。
俺を、そこら辺の男と一緒にするな」
淡々と言って、名刺を目の前で破り捨てた。



「はぁ…」
イライラする……!

李範はため息をつきながら、家路を歩く。
前髪をかき上げて、グシャッと髪の毛を握った。

そこに、プップーッとクラクションが鳴る。
「李範くん?」

ゆっくり李範の横に車が止まり、助手席の窓が開く。
運転手から呼びかけるように男性の声がした。

李範が覗き込む。
「…………生見(いきみ)さん?」

「一人?」
「はい」

「━━━━ちょっと、そこのカフェで一杯どう?」


生見は、李範にデザインのいろはを教えてくれた人物で、生見広告の代表取締役。

李範の、尊敬する人物である。


夏菜に再度連絡して断りを入れ、生見とカフェ店に向かった。

「久しぶりだな、李範くん」
「はい。ご無沙汰してます」

「ほんとだよ!
…………まぁでも、仕事忙しいみたいだしね!」
「おかげさまで!」

「あっという間に、僕を越えてったもんなぁー」

「フッ…何言ってんすか!
生見さんには、敵いませんよ(笑)」

「君のデザインは、斬新で…でも繊細。
尚且つ綺麗で、人の目を惹いて放さない。
もう……天性の才能としか言いようがないからね~」

そう言って笑い、コーヒーに口をつける生見。
静かにカップを置き、李範を見据えた。

「………なぁ、李範くん」
「はい」

「君は今、楽しく仕事できてる?」

「え?あ、はい。もちろんです」

「そう……」

「生見さん?」


「━━━━━━だって君は“純香のために”この仕事を始めただろ?」
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