社長は身代わり婚約者を溺愛する
電車で10分の場所に、美術館はあった。

「芹香さん。」

声のする方を見ると、信一郎さんが近づいて来た。

「信一郎さん……えっ、美術館で待ち合わせじゃ。」

「待てなくて、来てしまいました。」

信一郎さんは、私を見てニコッと笑う。

「と言うのは嘘で。芹香さんに一秒でも早く会いたくて。」

胸がキュンとなった。

「そうですか。」

カバンを持つ手が、恥ずかしがっている。


「行きましょう。」

「はい。」

駅から二人で美術館に向かい、私達は受付の前に立った。

「こちらのチケットで。」

受付の女性が、信一郎さんが出したチケットを見ると、途端に騒ぎ始めた。

「どうぞ。お楽しみ下さい。」

「ありがとう。」

お金を払うことなく、私達は常設展示場へと向かっている。

「お金払わなくて、よかったの?」

「前売り券だからね。」

「でも、受付の人達驚いてましたよ。」
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