社長は身代わり婚約者を溺愛する
私の胸に、グサッと何かが刺さった。

「私の……家も……」

「ええ。沢井薬品の社長と言えば、日本有数の資産家ですよ。」


あまりにも、私の家と違う芹香の家。

そして私は、そんな資産家のご令嬢として、信一郎さんに見られているんだ。


「信一郎さん……」

「はい。」

「私、そんな家のお嬢様に見えています?」

作り笑いをした私を、きっと芹香は笑い飛ばすと思う。


”私はそんなの、気にした事ないわよ!”

芹香なら、きっとそんな事を言うだろう。

でも、私は違う。


「そんなに追い詰められてような顔をして。」

「えっ?」

「芹香さんは芹香さんじゃないですか。沢井の家に縛られる事なんてないですよ。」

私の悩みが、一瞬にして吹き飛んでしまった。

「ありがとう、ございます。」

軽く頭を下げると、信一郎さんの手があった。

デートなのに手も繋がないなんて、寂しいと思った。
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