社長は身代わり婚約者を溺愛する
「とにかく、私が上手くいかない事も、芹香だったら上手くいく。」

「そんな事ない。私だって、上手くいかない時だってあるよ。」

いつまで経っても、平行線。

そうなんだ。

自由な芹香は、不自由な生活をしている私の気持ちなんて、分からない。


「ごめん。私、帰るね。」

「礼奈。」

芹香が手を伸ばす。けれど、立ち上がった私に、それはかすりもしなかった。

「お金はいつも通り返すから。」

「そんなの、気にしなくていいよ。」

普通だったら、いつお金を返してくれるかどうか、一番気にするのに!

「私と礼奈は、お金だけの関係なの?」

私は涙を必死に堪えていた。


「少なくても私は、礼奈と心で通じ合っていると思っているよ。」

そう言う彼女が、いつにも増して、魅力的に見えた。

「……ありがとう、芹香。」

惨めに思えた。

貧乏にこだわっているのは、私だけかもしれない。

お金なんて関係ないと言える芹香が、羨ましく仕方がなかった。
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