社長は身代わり婚約者を溺愛する
信一郎さんが受付の人の顔を覗き込むと、それでもまた驚いていて、改めて信一郎さんは凄い人なんだなと思った。

「はい、受付できます。こちらです。」

挙句の果てには、受付の人が直に入り口を案内してくれる始末。

どこまで信一郎さんは、特別な人なのだろう。


「この水族館も、信一郎さんの家が寄付しているんですか?」

「ああ……この水族館は、寄付じゃなくて出資してるんだ。」

「じゃあ、信一郎さんの家の水族館って感じですね。凄いなぁ。」


私の言い方に、戸惑いを感じたのか、信一郎さんは立ち止まってしまった。

「芹香さんは俺の事、凄い凄いって言うけれど、凄いのは俺じゃない。」

「信一郎さん?」

「今のところは、親父が凄いだけなんだ。」

この人は、その凄い家に生まれた自分を、気にしているのだろうか。

「でも、やがてそのお父さんの後を継ぐのでしょう?」

「どうかな。」

信一郎さんは、近くの水槽を覗き込んでいた。

「俺は俺の会社を持っている。親父の会社を継ぐかどうかは、分からない。」

本当だったら。

芹香のようなお嬢様だったら、そんな事を言われたら、不安になるだろうけど。

私は、逆にそんな風に言う信一郎さんを、頼もしく思った。

「……自分の人生は、自分で決めるって事ですね。」
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