社長は身代わり婚約者を溺愛する
「ああ、そうだね。」

信一郎さんの覗いている水槽を、私も一緒に見た。

「そういう信一郎さん、素敵だと思います。」

信一郎さんをチラッと見ると、優しく微笑んでいた。

「芹香さんは、普通のお嬢様と違うな。」

「えっ?」

ギクッとなって、何かマズい事を言ったかなと思った。


「普通、親父の会社を継ぐか分からないと言ったら、”そうなんですか?”って、不安な顔になる。」

「そうでしょうね。」

信一郎さんは私を見つめてくれる。

「でも芹香さんは、そういう俺を素敵だと言ってくれた。それは……」

「それは?」

「俺自身を見ていてくれているから?」


私達は、水槽の前で見つめ合った。

しばらくして、信一郎さんはクスッと笑った。

「俺の勘違いだったかな。」

そう言って信一郎さんは、歩き始めた。

「信一郎さん……」

信一郎さんの背中が、遠くなる。


今、信一郎さんに遠くに行かれたら、私はもう追いつけない。
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