社長は身代わり婚約者を溺愛する
「ははは。芹香と一緒にいるからね。」

その笑顔が眩しかった。

この笑顔を、ずっと見続けていられたら。そう思った。


『では、ショーのクライマックスです。一番前の席の方々は、水しぶきにご注意下さい!』

うわー、来た!

私は身構えた。

「ほら、芹香。イルカが来るよ。」

「えっ?」

その瞬間、イルカ達が水面を滑るようにジャンプして、水しぶきが私達にかかった。

「あははは!」

濡れているというのに、信一郎さんは楽しそうだ。

「早く拭かないと。」

私はハンカチを信一郎さんに差し出した。

「ありがとう、芹香。」


眩しい笑顔の裏で、私は傷つく。

私の名前は、本当は礼奈なのに。

でも、芹香だって嘘をついたのは、私だもん。

今更、芹香じゃありませんって、言えないよね。


「あっ、芹香。服、濡れている。」

信一郎さんの言葉に、私は胸元を隠した。
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