社長は身代わり婚約者を溺愛する
「でも……」

「でもじゃない。君は、俺がそんな薄情な人間だと思っているのか?」

私はううんと、首を振ったけれど。

この後、どうしよう。

運悪く、芹香に会ってしまったら。


そんな事を考えている内に、芹香の家の前に来てしまった。

「芹香、立てる?」

「うん。」

ここは大丈夫ように振舞わないと、今までの事がバレてしまう。

私はタクシーを降りると、信一郎さんに頭を下げた。

「送って頂いて、ありがとうございます。」

「いや、俺こそ飲ませ過ぎた。すまない。」

飲み過ぎたのは、私なのに。

優し過ぎるよ、信一郎さん。


「本当はこのまま、お父さんに会っていきたかったけれど、芹香の体調もあるし、又今度にするよ。」

「うん。おやすみなさい。」

「おやすみ、芹香。」

そう言うと信一郎さんは、私の頬にチュッと、キスをしてくれた。

「信一郎さん……」

「芹香、愛しているよ。」

そして信一郎さんは、タクシーに乗って行ってしまった。
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