社長は身代わり婚約者を溺愛する
「うん……」

私は、覚悟を決めた。

もう信一郎さんと会えなくてもいい。

あのキスで、私は満足する。


そうよ。信一郎さんは、私にとって手の届かない人。

最初から、結ばれない人だったのよ。


「芹香。私ね、初めて信一郎さんに会った時、こんなに素敵な人いるんだと思ったの。」

「えっ……一目惚れって事?」

私はうんと頷いた。

「信一郎さんも、私の事お淑やかだって、気に入ってくれて……だから。」

「だから?」

「断れなかった理由がそれ。お互い、気に入ったからって事。」

こうなったら、私も自信持っていかなきゃ。

気に入ったのは、私だけじゃない。

私と結婚したいと言ってくれた信一郎さんの為にも、芹香には納得して貰わなきゃ。


「だったら、何も私の名前を使わないで、自分は礼奈ですって言えばいいじゃない。」

うっ、と思わずなった。

痛いところ、芹香は突いてくる。

「それも、言えなかった。」
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