海色の世界を、君のとなりで。
季節は巡り秋。
高校二年生、木の葉が色づく秋とくれば、浮かんでくるのは高校生活における大きなイベントの一つとも言える修学旅行だ。
「どこ行くー?」
「渡月橋とかどう?」
「せっかく神社多いんだからさ、俺たちの班は神社めぐりしようぜ!」
クラスの端々からそんな声が上がっている。
行き先は京都。三泊四日。
都会の学校はもっと長いのかもしれないけれど、田舎に住むわたしたちからすれば十分長い旅行だ。
グループになって、自由行動の行き先を決めるこの時間に勝る授業が、果たしてあるだろうか。
「私たちはどこに行く?栞ちゃん」
机の上にある『修学旅行のしおり』を開きながら、可奈がにっこりと笑いかけてきた。
わたしもしおりに視線を落とす。
表紙には、クラスで一番絵が上手いと言われている羽宮さんのイラストが大きく描かれている。
独特な絵だ、と思った。
羽宮さんの絵をこうしてちゃんと見たことはなかったから、少し驚く。
言い表すなら、個性的、という言葉がしっくりくるような。
彼女にしか描けない、彼女だけの絵。
上手いというのはもちろんだけれど、それよりも芸術性が高いと言う方が頷ける。
それくらい、心を掴む不思議な絵。
これは間違いなく天賦の才だ。
根拠はないけれど、そう思わせてしまう彼女の絵は、やはり素晴らしいのだろう。