海色の世界を、君のとなりで。

ほうっと白い息が暗い空にのぼって消えていく。


「すっかり暗くなっちゃったね」

「うん。冬だから日没早いよね」


積もっている雪を踏みながら、並んで歩く。

冬は日が沈むのが早いので、部活が終わった頃にはもう外は真っ暗だ。


「わ……雪だ」


空を見上げた可奈がつぶやく。

同じように見上げると、暗い空からふわり、ふわりと桜の花びらのような雪が舞い降りてきた。


「……きれい」


可奈は、淡いピンク色の手袋をはめた手で粉雪をつかもうとする。

何度も何度も手を伸ばす可奈はまるで、雪の上を踊る天使のようだった。

あるいは、小雪を降らせる雪の精霊かもしれない。

きっと可奈に好意を寄せている男子たちが見たら、あまりの可愛さに卒倒してしまうだろう。


「可奈、あんまりはしゃぐと転ぶよ」


大丈夫!と返す可奈は、夢中で雪をつかまえようとしている。

本当に大丈夫かな、と心配になったそのときだった。


「わっ……!」

「可奈っ」


雪に足をとられて転びそうになった可奈の腕を咄嗟に掴む。

けれど、足場が安定していないせいか見事にバランスを崩し、二人して雪の上に倒れ込んでしまった。

救いだったのは、雪が柔らかくふかふかだったということと、汚れひとつない真っ白な雪だったということだ。


「ほら、やっぱり転んだ」

「ごめん栞ちゃん」


へへ、と笑う彼女はきっとさほど悪いとは思っていない。

むしろこの状況を楽しんでいるように見える。


「……ふふ」

「あははっ」


同時に噴き出す。

くるりと寝返りを打つと、同じように寝返りを打った可奈と至近距離で目が合った。

互いの吐く息が鼻先にかかってしまうくらいの距離に、思わず息を呑む。

しん、と静まり返った世界はまるで二人きりになってしまったかのようで。

ふわりふわりと降りてくる雪さえも空気を読んだかのように、静寂の世界に音を消して舞い降りてくる。
< 196 / 323 >

この作品をシェア

pagetop