海色の世界を、君のとなりで。
きっと出逢うべき人がいて。
きっと果たすべき約束があって。
どこで誰と交わしたのか、そんなことは分からないのに。
わたしはずっと、その奇跡を知っている。
真っ黒な世界を変えてしまう、たったひとつの特別な光を、いつだって探している。
*・*
さらりと風が吹き、流れるように髪がさらわれていった。
高校の入学式翌日。
まだクラスメイトの顔と名前が一致せず、慣れない制服に身を包んでいる、そんな日の放課後。
わたしは、海が見える屋上で、ある男子と対面していた。
「……あの、わたしに何か用ですか」
身構えながら問いかけると、フェンスに身を預けていた彼は、ゆっくりと身体を起こした。
細い黒髪が光に溶けて、淡く輝きだす。
「……お前さ」
初対面にも関わらずこうして屋上に呼び出し、挙句の果てにお前呼びまでしてくる彼は一体何者なのだろう。
人生一度きりの高校生活初の放課後を、こんなことに使ってしまったわたしの身にもなってほしい。
そんなことを考えていると上から、
「おい」
と低い声が降ってきた。
変な人に目をつけられてしまった、と心の中でため息を吐く。
そのまま静かに待っていると、少しの静寂のあと、言葉が落とされた。
「前向けよ」
顔を上げろ、ということだろうか。彼の声からは、隠しきれない不満が滲み出ていた。