海色の世界を、君のとなりで。
「───…好き。」
まっすぐに向けられた瞳は、不安げにゆらゆらと揺れていた。
これは、可奈がふと見せる瞳。
────とられたくない。
そんな思いが強く出たときに現れる瞳だ。
「……えっ……と」
可奈の瞳に映るのは紛れもなくわたしで、紡がれたのは本来星野に言うべき言葉で。
息をするのも忘れて、その瞳を見つめ返した。
「栞ちゃん。好き、なの。
ずっと、好きだったの────」
どういうこと、とここにきてもう一度聞き返すほど、わたしも鈍感ではなかった。
ただ、少し。
困惑してしまっただけで。
どうしていいか分からず、え、と小さくか細い声が唇からこぼれ落ちる。
ぎゅっ、とわたしの手を握る可奈の手に力がこもった。
強く、それでいて優しく。
彼女はいつもこうだったな、と思う。
「好きになって、ごめん……」
こうしていつも相手のことを考えて自分を押し殺して、それでも無理していつかは溢れてしまう。
思いが口から出るときには、とうに限界は通り越していて。
可奈はいつだって、誰かに助けを求めることをしないのだ。
自分を責めて、責めて、せめて。
するりと離れた手。
ガバッと立ち上がった可奈は、振り返ることなく走り去っていく。
「……っ、可奈!」
そんな叫びは────届かず。
小さくなっていく背中を、降り積もる雪が静かに包み隠していった。