海色の世界を、君のとなりで。
 だから、口にしてはいけない。
 間違っても、想いを言葉にしてはいけない。自分にはそんな資格なんてないのだから。

 そう、自分でも分かっていたのに。


「わたしがここにいるって……どうして、分かったの?」


 彼はわたしが助けを求めたとき、必ず来てくれる。

 部活のときも、グループ発表のときも、そして今だって。まるですべて分かっていたかのように、どこからか颯爽と現れて、手を差し伸べてくれる。
 いちばん助けてほしいときに現れて、いつだって優しさを与えてくれる。
 わたしなんかのために、いつも、何度も。


「分かんねえよ」

「え……?」

「俺だって分かんねえけど、なんか分かるんだよお前のことは」


 スッと視線を逸らして、そんなことを呟く星野。その頬がわずかに赤らんでいるように見えて、鼓動の高鳴りとともに胸の奥深くから感情が込み上げてくる。

 駄目だ。よくない、止まれ。

 心の中にいる自分が必死に訴え叫んでいる。脳内では警鐘が鳴り響いて、それ以上口を開くなと言っている。

 それなのに。



「────好き。」



 とうとう溢れてしまった。あれだけ我慢していたのに、ついに零れてしまった。


 はっと気がついたときには、その言葉はもう星野に届いてしまって。

 彼の切長の瞳がわずかに見開かれ、海の色をした瞳がゆら、と揺れた。
 硝子玉のように透き通った瞳がまっすぐにわたしを捉える。
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