海色の世界を、君のとなりで。

 ……やってしまった。


 さあっと血の気が引き、何かが崩れ落ちていくような予感がする。

 結局わたしは何も変われていなくて、自分が蛙化現象で人を傷付けると知っておきながら、どうして自分の道を勝手に進もうとするのだろう。

 その言葉は、いちばん言ってはいけない言葉だったのに。

 あんなに心に誓ったはずだったのに。


 ずっとずっと堪えて、自分の気持ちに気づかないふりをして、それでも想いは生まれてしまって。

 それならせめて伝えることなく、この命が尽きるまで貫こうと思っていたのに。


 全然、だめだった。

 伝えたところで何になるのだろう。

 わたしはいったい何がしたいのだろう。


 星野が好きなのはきっと可奈だから、どうせ伝えても振られてしまう。

 もし奇跡が起きて……なんて自惚れたとして、仮にも星野がわたしを見てくれる日が来たとしても、わたしは振り向くことができないくせに。

 どちらにしろ、デメリットしかない告白だ。

 そんな自分自身の気持ちがわからないくせに、何を勝手に言い放って、それで。



「……返事は、しないで。おねがい…」



 なんて理不尽なことを言っているのだろう。

 伝えるだけで満足して、こんなの自分勝手すぎるじゃないか。

 自嘲的な笑いが込み上げてきた。

 もう、笑うしかなかった。


 いっそのこと、ここで思いきり振られてしまえばいい。

 間違いだって、戒めてくれればいい。

 当然の報いだと、吐き捨てられてしまえばいい。

 目を閉じて、星野の口から続く言葉を待つ。


 きっと耳を塞ぎたくなるような言葉だろう。

 それでもわたしは聞かなければならない。


 大好きな彼からの、拒絶の言葉を。
< 243 / 323 >

この作品をシェア

pagetop