海色の世界を、君のとなりで。
「お前こそ、俺のこと分かってねえだろうが」
「……っ、は? なに、言って……」
「見放す? 嫌いになる? 軽蔑して離れていく? ───…なめんじゃねえよ」
強い口調にびくりと肩が跳ねる。
雨の音が遠くに聞こえて、そのかわりに、ドクンドクンと心臓が鐘を打つ音だけが響いている。
ガシッと肩を掴まれて、そのまま強引に視線を合わせられる。空と海をかけ合わせたような瞳の奥には、惨めな顔のわたしがいた。
「何度だって好きにさせてやるよ。お前が俺を嫌うたび、また惚れ直させてやる。だからくだらねえ心配すんな」
最初から、こいつはそういうやつだ。
強気で、あり得ないことを平気で言ってのけるやつで。漫画のような台詞でさえ、許されてしまうようなやつだから。
『お前、俺のこと好きになるよ』
入学式の日彼が言ったことは、本当になってしまった。必死に足掻いても、その通りになってしまった。
そしてきっと、今の言葉ですら叶ってしまうだろう。それはとても嬉しくて、あたたかくて、哀しい予感。
彼はいつだって自分に自信があって、強くて、まっすぐで。
気がついたら、惹かれていた。
そこに明確な答えや理屈なんてなく、"星野だから"、いい。
恋愛は理屈じゃないと言うけれど、ほんとにそうだ。
直感。感覚。なんとなく。
そんな理由だけでも居心地よく感じて、となりにいたいと思ってしまう。
暗いアスファルトがますます滲んで、ぼやけていく。頭も心もぐしゃぐしゃになって、涙があふれて止まらなかった。