海色の世界を、君のとなりで。
「栞」
頬に手を添えられたかと思うと、ぐっと強く引かれて上を向かされる。
雨ばかりの視界の中で、透きとおる瞳と視線が絡まった。涙で滲んで見えないはずなのに、彼の瞳だけは、はっきりと見ることができて。
「……何年間、──だと思ってんだよ」
雨の音でかき消されて、肝心なところは私の耳には届かなかった。
きっと、わたしが聞くべき言葉ではないと、神様が音を消してくれたのだろう。そのほうが、正しいから。
聞きたかったけれど、耳に届かなくて本当によかった。泡のような小さな後悔は、安堵の波にさらわれて、消えていった。
あとから、あとから。
降り続ける雨は、わたしたちの存在を、包み隠してゆく。