海色の世界を、君のとなりで。

『────成瀬』



 頭に響くように、わたしを呼ぶ声が聞こえてくる。

 低くて芯があるのに、誰よりも柔らかくてあたたかみのある声。それは、鋭くも優しくもなってしまう魔法の力を持った声。


 わたしを何度も何度も救ってくれた声。


 その声で形づくられる言葉に嬉しくなったり、悲しくなったり。怒ったこともあったし、ドキドキさせられることだってたくさんあった。


(ああ、わたし)


 いつからこんなにも弱くなっていたのだろう。

 ここは、わたし自身が強く望んだ世界のはずなのに。

 広大な自然に囲まれて、わたしを叱る人なんて誰もいない。疲れることもないし、きっとお腹が空くこともないのだろう。

 それなのに、どうして。


 寂しい。


 そんなことを、思ってしまうのだろう。



「───…来い、成瀬」



 ふと、近くから声が聞こえたような気がした。

 え、と思う暇もなく、素早く左手がとられる。戸惑うわたしをよそに、走り出す彼は。

 光に溶けてしまいそうな髪を揺らして、強く、あたたかく、手を引いてくれる彼は。



「戻ってこい」



 繋いだ手に力を込めて、目を見張るわたしに、振り向くことなく告げた────。
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