海色の世界を、君のとなりで。
「栞ちゃん、天然なので。回りくどく言っても伝わりませんよ」
「いいんだよ今は。ゆっくり思い出せばいいんだ」
俺から昔のことを伝えようとは思わない。
またこうして巡り会えて、一緒にいれるだけで幸せなのだ。
焦らずゆっくり年を重ねて、彼女の気持ちに向き合っていければそれでいい。
そしていつか、俺が思っているような関係になれるかもしれないし、まったく違う形に落ち着くかもしれない。
それでいいのだ。
未来のことなんて誰にも分からないのだから。
「俺はあいつのすべてを受け入れてる。だから、何があってもそばにいる。……そばに、いたいんだ」
好きという感情が行き着く先は、すべてが付き合うことではない。
俺たちのような関係性があってもいいだろう。
そばにいたい。
あいつのとなりで、この世界を生きていきたい。
彼女と出会ったこの水縹色の空が広がる世界で、海の青が揺れる世界で、一緒に生きていきたい。
「だって俺、あいつのこと好きだから」
俺が幸せにしてやると決めている、大切な人。
もし仮に病院で出逢わなかったとしても、きっとどこかで巡り逢っている。
そして、俺は彼女を好きになっているはずだ。
なぜだかそんな確信があった。
小さい頃の出来事がなかったとしても、俺はずっと成瀬栞が好き。
成瀬栞という存在に惹かれているのだから。
一緒にいればいるほど、どんどん好きになって、離れがたくて、愛しいとさえ思う。
『お前、俺のこと好きになるよ』
やっとたどり着けた、再び巡り逢うことができたあの日を俺は一生忘れない。