海色の世界を、君のとなりで。

『────なんて、いなくなっちゃえばいいんだ!』


突然、脳内に流れ込んでくる記憶に、思わず頭を抱えた。

さっきまで聞こえなかった風の音が、鳥の声が、虫の声が、まばらにある民家から聞こえてくる声が、堰を切ったように耳に流れ込んでくる。

動悸がして、息が荒くなっていく。

肩を揺らして、浅い呼吸を繰り返す。


「う……っ」


痛い、苦しい、息ができない。


ごめんなさい。
ごめんなさい。ごめんなさい────。


キーンと耳鳴りがして、激しい頭痛に襲われる。

心臓の鼓動が速くなっていき、どっどっと血液が全身を駆け巡っているのが分かった。


忘れてはいけない痛み。

ずっと、覚えていなければいけない苦しみ。


「……おい、大丈夫か」


彼にしては焦ったような声が降ってくる。

そして、うずくまるわたしの肩にそっと手が置かれた。
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