海色の世界を、君のとなりで。
「……傘、ないの?」
小さく訊ねると、海の色をした綺麗な瞳が流れてわたしを捉える。
トク、と鼓動が響いたような気がして、思わず傘の持ち手を握りしめた。
無表情で佇んでいた星野は、少しだけ眉を下げて「ああ」と呟く。
周りを見てみると、残っている生徒はもうほとんどおらず、見知った顔はいないようだった。
「……入る?」
もごもごと口を動かして、躊躇いがちに訊いてみる。
「入れろ!」なんて傲慢な態度で言ってきてくれれば、軽口を叩きながらも「しょうがないなあ」なんて言って入れてあげたのに。
何も言わずにそこにいるから、なんだか可哀想に思えて「じゃあね」なんて言ってわたしだけ帰れるはずなかった。
「いいのか」
「だって、このままじゃ帰れないでしょ、星野」
とりあえず断られなかったことにどことなく安堵し、ふうっと小さく息を吐く。
入って、と促すように少しだけ傘を傾けると、「悪い」と呟いた星野は傘に身体を滑り込ませた。