海色の世界を、君のとなりで。
パラパラと傘に打ちつける細やかな雨の音。
低いとは言えないわたしの背よりもはるかに高い星野が濡れてしまわないように、やや高めに傘を固定して歩く。
星野の方に傾けているから左肩が若干濡れてしまっているけれど、身長差があるから仕方がない。
すると、ちらとわたしに視線を向けた星野が、無言でわたしの手から傘をさらって、わたしの身体全体が入るように持ち直した。
その流れるような動作と、ふいに触れ合った指先に、体温が上昇していくような感覚がする。
「……あ、ありがと」
「ん」
視線を彷徨わせてなんとかお礼を言う。
たいして気にした様子もない星野は、ふと視線を上げて傘を見た。
「綺麗だな、この色」
「……え?」
まさか傘について褒められるとは思っていなかったので少々驚く。
嬉しさと驚きとが混ざり合って、なんとも言えない感情に包まれながら、「星野もそう思う?」と呟いた。
「ああ。なんていう色?」
「水縹だよ。水色の古い言い方なんだって。空の色みたいですごく綺麗だから、わたしはこの色が好きなの」
「……ふうん」
いつも通り興味のなさそうな声で返事をする星野。
そんな反応をするなら、わざわざ訊かなくてもいいのに。
と、心の中で少しだけ文句を並べながら、星野のとなりを歩く。