海色の世界を、君のとなりで。
通学路に生徒はいなくて、たまにすれ違うご婦人がにこやかに「いいわねえ」なんて言って通り過ぎていく。
そのたびにわたしたちは黙って会釈をした。
なかには「お似合いねえ」なんて言葉を贈ってくる方もいて、内心、そんなんじゃないのに、と答えながらも笑顔を絶やさないでいた。
同じ傘に入るだけで、やはり恋人とか、それに近しい関係に見えるのだと。
俗に言う"相合傘"の威力は凄まじいなと感じながら、足元が濡れないように注意しながら歩く。
星野は道路に視線を落として、静かに歩いている。
この前一緒に帰ったときとはまた違う雰囲気に、なんだかひどく落ち着かない。
あの日は晴れ、今日は雨。
空模様だけでこんなにも空気が違ってしまうのだと思いながら、しんみりした空気を打ち消すために、下を向く星野におもむろに声をかけた。
「前、向いて」
バッ────と。
急に視線を上げてわたしを見つめた星野は、こっちが驚いてしまうほどに目を丸くしていた。
ピタリと星野の足が止まって、それにつられるようにしてわたしの足も止まる。
そこにあるのは、雨の音だけが響く、静寂。
「え……どうしたの、星野」
微動だにしない星野に幾度かの瞬きを繰り返し、訊ねる。
黙っていた星野は、「あ、いや」と彼らしくない焦ったような返事をして、再び前を向いた。