海色の世界を、君のとなりで。

「……大丈夫?」

「ああ────ごめん」



余計に微妙な雰囲気になってしまって、なんとなく気まずくて視線を彷徨わせる。

それからまた降りてきた沈黙。


もうどうしようもなくて、ただひそめるように息をして、家までの道を歩いた。



「え、星野……?」



わたしの家の方向に向かう星野に首を傾げると「送るよ」と小さく告げた星野は、静かに前を見据えた。



「え、でも悪いし……」

「じゃあ、はい」

「え……?」



差し出された傘。

迷うことなくわたしを見つめる星野をじっと見つめ返す。



「星野、濡れちゃうよ」

「これ、お前の傘だろ。ありがとな」



そこまで言われて気付いた。

傘は一本しかなくて、当然ながら途中で別れたらどちらかは傘なしで帰らなければならない。


わたしが送らなくていいと言えば、星野はここから傘なしで帰るつもりなのだ。



「だ、だめだよ星野。……分かった。送って?」



慌てて言うと、ふっと息を吐き出した星野は再び歩き出す。

そのとなり、肩が触れ合うか触れ合わないかの距離に並んだ。


これはカップルの送る送られるなんかじゃなくて、ただ単に緊急事態なのだ。


雨が降ってきて、傘がひとつしかなくて。

星野が濡れてはいけないから、最善の策をとっただけ。
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