海色の世界を、君のとなりで。
「折り畳みだし、いつも使うわけじゃないから」
「……だけど、お前」
「だから急な雨に降られて困ったとき……そのときは星野が迎えにきてくれない?今日の借りを返してくれない、かな」
「……いつになるか分からねえのに?」
「それでもいいよ。……待ってるから」
言ってしまってから自分でも、何を言っているんだ、と恥ずかしくなる。
『急な雨に降られて、傘がなくて困ったときに迎えにきて』なんて、そんな曖昧であやふやなことを言っても星野を困らせてしまうだけだ。
それは明日かもしれないし、一ヶ月後かもしれないし、もしかすると半年後になるかもしれない。
それでももう一度、一緒に帰りたいと思ってしまった。
彼とこうして同じ傘に入って他愛もない話をしたかったと言ったら、彼はなんて言うだろうか。
心の奥深くに眠るわたしは、いったいなんて言うのだろうか。
そこまで考えて、さすがにわがままの度がすぎると気付いて、慌てて取り消そうと口を開いたとき。
「分かった」
小さく頷いた星野は、透き通る瞳でわたしを見つめた。
綺麗だ、と純粋に思った。