君の甘い笑顔に落とされたい。

こ、この人、人の話聞かないしなんか色々と変……!

伸びてくる腕にもギョッとする。

も、もう逃げるしか……


「……っ!」


グイッと、強く腕を引っ張られたのはそんな時だった。

柔らかい香り、力強く抱きしめてくれる大きな手。久世くんの胸の中で、目を見開く。


「久世く、」
「何も言わなくていーよ」


優しい声音に、強張っていた体がふっと緩まるのを感じた。


「……あ、逃げた」


その声にベンチの方に視線を向ける。
確かにさっきの男の人はもういなくて、代わりに走り去る後ろ姿が見えた。

……私にかけてくれた声は優しかったけど、さっき男の人に向けていた久世くんの顔、すごく冷たかった。



「(久世くんって、あんな怖い顔も出来るんだ)」
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