媚薬を盛って一夜限りのつもりだったので、溺愛しないでください!


 バルドに懇願されたフローラは、レオに会いに行くことにした。
 家の中で待機していたらしいクロ様に、その事を伝える。

『体調が万全ではない今、無理をするのは危険だ。家で療養しろ』
「……ごめんなさい。クロ様……」

 レオのことが心配で居ても立っても居られなかった。結局フローラはクロ様の制止を振り切って森を出ることにした。

 森を抜け、近くの街に停めてあったバルドの馬車に乗る。そこから三日かけて来たのは、ガルディア王国の王都だった。

 道中は悪阻に耐えながら、気づかれぬようあまり喋らず過ごした。
 バルドをはじめとする人間達は、フローラが車酔いをしていると思っていたようで、あまり怪しまれず助かった。

「到着したようてす」

 揺れと吐き気に耐えながら、目を閉じていたが、バルドの声で目を開ける。
 馬車の扉が開くと、大きな宮殿があった。

 白を基調とした建物で、高い塔がいくつもある。今までに見たことがないほど大きな扉を開けると、シンプルだがところどころに金色が散りばめられた内装にまた驚いた。

(王都にこんな宮殿を建てられるだなんて……まさか……)

「道中にあらかじめご説明すべきかと思いましたが、体調が優れないご様子でしたので。ともかく我が主に会っていただきます」

 段々と青ざめていくフローラに気付いたのか、バルドが申し訳なさそうに言った。
 辿り着いたのは、紅の絨毯が長く敷かれた重厚な部屋だった。その絨毯の先は、少し段差がありフローラがいる位置よりも高い。そしてその頂点に椅子が。

 ここは、まさか──。

「あの、もしかして……」
「はい。我が主は、レオナルド・カルディーニ第二王子です」
「レオナルド……王子!?」

 高貴な人物だと思っていたが、まさか、王子様だったとは。
 フローラは思わず、自分の下腹に触れた。この子の存在は、なんとしても隠さなければならない。

「内乱を制圧したばかりです。呪いのことはご内密に」
「……わ、分かりました」

 バルドとともに頭を下げて待機していると、誰かが座るような衣擦れの音がした。

「顔をあげよ」
「……!」

 それは、フローラが夢に見た、一番聴きたかった声。
 そして顔を上げると、悪阻で辛い日々に、ずっと会いたかったその人が居た。

(……レオ!!)

 玉座には国王様と思われる方が座り、その横にレオが立っている。思わず涙ぐむと、わずかにレオが驚いた顔をした。

 そして冷たい声が室内に響く。

「バルドが勝手をした。しばらくは客間を使って構わないが、そなたをこの王宮にとどめるつもりはない。森へ帰られよ」

 太陽のような金色の瞳は濁り、身体はやせ細っている。覇気のない言葉は、温かみを帯びることはなく、切り捨てるようにフローラに届いた。

(……レオ……)

 レオの呪いは、随分進行していた。
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