媚薬を盛って一夜限りのつもりだったので、溺愛しないでください!


「フローラ?!」

 目を開けた途端見えたのは、眩しいほどに美しい金の瞳。サラサラとした銀の髪。その整いすぎた顔立ちは、一気にフローラを覚醒させた。

「……レオさま?」
「ああ! よかった!」

 しかし、フローラはまだ夢の中にいるのでは、と目を疑った。

 なんとレオは、その美しい金色の瞳に涙を浮かべているのだ。そしてフローラが目覚めたことに歓喜しているかのようなそぶりで、彼女の額に口付け、目を覚ます前から握り締めていたらしい手の甲にもキスを何度も落とした。

 呪いを解く前との態度の違いに戸惑う。というか森にいた頃とも違う、甘い接触にフローラは大混乱だ。

「レ、レオ?!?!」
「フローラ……よかった……本当に……」

 まるでフローラの存在を確かめるかのように、髪や額、頬を、その大きな手で慈しむように触る。金の瞳が優しく細められた。
 その瞳には、呪われていた時の濁りはない。森で出会った頃と同じ、太陽のような金色であることに、フローラは安堵した。

「あの……?」
「私の呪いを解いてくれたこと、礼を言う。フローラに会えて嬉しい。ずっと会いに行きたいと願っていた」
「え……」

 てっきり媚薬を盛られ、怒って出て行ったのだと思っていた。『会えて嬉しい』とは、どういうことなのだろう。
 呪いが解かれた彼は、今本心を言っているのだろうが、フローラは疑問でいっぱいだった。

「ああ、起きて早々騒がしくしてすまない。ゆっくりしていていい。ただし、今後はこの私の部屋で療養してほしい。大丈夫、お腹の子も元気だ」
「!?」

 何故、お腹の子のことを……!? 倒れたことで身体を調べられたのか、とフローラは思わず自身の腹に手を当てた。

「安心してくれ。堕ろせなんて言わないし、君から取り上げるつもりもない。フローラとの子が授かったのだと知って嬉しい。私はその子の父として、君を妃にしたいと思っている」
「ええ!?」

 にっこりと極上の笑みで宣言されたが、フローラは混乱するばかりだった。
 何故腹の子の存在がバレてしまったのか、妃だなんて身分不相応な突拍子もない話になったのか疑問だらけだ。

 大好きな黄金の瞳は、あの森で見つめていた頃よりも、もっとキラキラと輝いて見えた。フローラはその無邪気な笑みにキュンとしつつも、自分の置かれた状況に混乱するばかりだった。
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