媚薬を盛って一夜限りのつもりだったので、溺愛しないでください!
エピローグ
『おい! フローラ! ちょっ、助けてくれ!』
黒猫魔物の姿で、クロードが右往左往している。クロードの目の前には、天使のような風貌をした、それはそれは可愛らしい赤ちゃんが座っている。
ただ、可愛らしいのは見た目だけだった。その気性は荒く、大人たちは振り回されてばかりだ。お世話をする者は相当の覚悟が必要だった。
「だぁ」
『こら! 尻尾を掴むな!』
「むぅ」
『おわあ!』
この赤ちゃんの名は、ララ。レオとフローラの愛娘だ。ララは、レオに似て銀色の美しい髪色に金色の瞳をもつ、見た目だけは天使のような赤ちゃんである。だが、魔力量もかなり多く、浮遊魔法を使いこなす厄介な珍獣である。困ったことに、最近はクロードを空中で回すのがお気に入りだ。
「クロ様!? ひゃああ! クロ様を回しちゃだめよ!」
空中で回されていたクロードをフローラが必死にキャッチして止めた。ララは完全に面白がっている。
フローラが妊娠中に補ってもらったクロードの魔力を、腹の中で吸ったために、ララは魔力量が多くなってしまったらしい。しかしもしかしたら、魔物であるクロードの魔力が、隔世遺伝したのかもしれない。
「にゃあにゃ」
ララは、クロードを回し終えると、ぐったりしているクロードを荒々しい手つきで撫で回す。
『フローラ、俺、ちょっと森に……』
「困ります! この子、クロ様にお会い出来ない日のご機嫌最悪なんです……! 侍女達みんな浮遊魔法で投げちゃうんです! 今日はまだ居てください! お願い……! お父様!」
『わ、分かった』
フローラや侍女達はクタクタだった。魔法が使える赤ん坊の世話が、ここまで大変だとは。部屋の中は常にボロボロのごちゃごちゃで、片付ける暇もない。昼夜問わず泣けばものが飛んでくるし、自分達も飛ばされるのだ。癇癪が起きるたびに恐怖で少し手が震える。自分の子どもだというのに。こんなにもいうことを聞かないなんて、自分は母親失格なのではないか。フローラは睡眠不足なこともあって気弱になっていた。
そんなフローラの不安定さを感じ取ったのか、クロードは『数時間はみててやるから、少し寝とけ』と言った。
「ありがとうございます……」
フローラは有り難く寝室へ足を向けた。
あの騒動の後、レオとフローラが婚約を発表してから、わずか二週間後に二人は結婚式を挙げた。フローラが思い直したりしないうちに、とレオが急いだ結果である。
そして、急ピッチで建てられた離宮に二人で移り住み、その後、待望の愛娘、ララが産まれた。出産は今までに経験したことのない強い痛みで、フローラは腰が割れたかと思ったものだ。治癒魔法が使えないことを、この時ほど呪ったことはない。
しかし本当に大変なのはそこからだった。ララは気性の荒い子どもで、よく泣き喚く。そして全く眠らない。眠らないが眠い時もあって、そんな時は癇癪を起こし、物や人を魔法で浮かべて回すのだ。回るものを見て自分で落ち着き、落ち着くと機嫌が治りそのまま寝たりする。便利なのか大変なのか分からないが、とにかく毎日が目まぐるしく、自分の食事さえまともに取れない日々が続いていた。
レオは公務が忙しく、育児に参加しようと頑張ってくれてはいるものの、クロードほどの活躍はできていない。
ララは実の父のレオよりも、黒猫姿のクロードと遊ぶ方が好きだった。それでフローラはクロードについ頼ってしまっている。
(少し寝たら、クロ様の好きなおやつをお出ししよう……)
そう決意して目を閉じると、フローラはあっという間に眠りに落ちた。
黒猫魔物の姿で、クロードが右往左往している。クロードの目の前には、天使のような風貌をした、それはそれは可愛らしい赤ちゃんが座っている。
ただ、可愛らしいのは見た目だけだった。その気性は荒く、大人たちは振り回されてばかりだ。お世話をする者は相当の覚悟が必要だった。
「だぁ」
『こら! 尻尾を掴むな!』
「むぅ」
『おわあ!』
この赤ちゃんの名は、ララ。レオとフローラの愛娘だ。ララは、レオに似て銀色の美しい髪色に金色の瞳をもつ、見た目だけは天使のような赤ちゃんである。だが、魔力量もかなり多く、浮遊魔法を使いこなす厄介な珍獣である。困ったことに、最近はクロードを空中で回すのがお気に入りだ。
「クロ様!? ひゃああ! クロ様を回しちゃだめよ!」
空中で回されていたクロードをフローラが必死にキャッチして止めた。ララは完全に面白がっている。
フローラが妊娠中に補ってもらったクロードの魔力を、腹の中で吸ったために、ララは魔力量が多くなってしまったらしい。しかしもしかしたら、魔物であるクロードの魔力が、隔世遺伝したのかもしれない。
「にゃあにゃ」
ララは、クロードを回し終えると、ぐったりしているクロードを荒々しい手つきで撫で回す。
『フローラ、俺、ちょっと森に……』
「困ります! この子、クロ様にお会い出来ない日のご機嫌最悪なんです……! 侍女達みんな浮遊魔法で投げちゃうんです! 今日はまだ居てください! お願い……! お父様!」
『わ、分かった』
フローラや侍女達はクタクタだった。魔法が使える赤ん坊の世話が、ここまで大変だとは。部屋の中は常にボロボロのごちゃごちゃで、片付ける暇もない。昼夜問わず泣けばものが飛んでくるし、自分達も飛ばされるのだ。癇癪が起きるたびに恐怖で少し手が震える。自分の子どもだというのに。こんなにもいうことを聞かないなんて、自分は母親失格なのではないか。フローラは睡眠不足なこともあって気弱になっていた。
そんなフローラの不安定さを感じ取ったのか、クロードは『数時間はみててやるから、少し寝とけ』と言った。
「ありがとうございます……」
フローラは有り難く寝室へ足を向けた。
あの騒動の後、レオとフローラが婚約を発表してから、わずか二週間後に二人は結婚式を挙げた。フローラが思い直したりしないうちに、とレオが急いだ結果である。
そして、急ピッチで建てられた離宮に二人で移り住み、その後、待望の愛娘、ララが産まれた。出産は今までに経験したことのない強い痛みで、フローラは腰が割れたかと思ったものだ。治癒魔法が使えないことを、この時ほど呪ったことはない。
しかし本当に大変なのはそこからだった。ララは気性の荒い子どもで、よく泣き喚く。そして全く眠らない。眠らないが眠い時もあって、そんな時は癇癪を起こし、物や人を魔法で浮かべて回すのだ。回るものを見て自分で落ち着き、落ち着くと機嫌が治りそのまま寝たりする。便利なのか大変なのか分からないが、とにかく毎日が目まぐるしく、自分の食事さえまともに取れない日々が続いていた。
レオは公務が忙しく、育児に参加しようと頑張ってくれてはいるものの、クロードほどの活躍はできていない。
ララは実の父のレオよりも、黒猫姿のクロードと遊ぶ方が好きだった。それでフローラはクロードについ頼ってしまっている。
(少し寝たら、クロ様の好きなおやつをお出ししよう……)
そう決意して目を閉じると、フローラはあっという間に眠りに落ちた。