媚薬を盛って一夜限りのつもりだったので、溺愛しないでください!
その後フローラは、人間が寝ている間に薬を調合することにした。とりあえず傷口に効く薬は塗り、解毒剤も飲ませた。先程の様子だと、きちんと薬が効いているようだったが、念の為もう少し解毒剤の種類を増やし、痛み止めなども調合しておこうと思ったのだ。
彼には頭部に殴られたような痕があり、肩から腕、太腿には剣で斬られた深い傷がある。
高貴な身分なのだろうが、命を狙われるとすれば、犯罪者だったりするのだろうか?
だが、あの美しい黄金の瞳を思い起こすと、そんな人には見えなかったな、とフローラは思った。
(とにかく今は死なないように治療して、さっさと出て行ってもらわなくちゃ)
人間がこの家にいる限り、クロ様には会えないだろう。幸い、魔女の薬は魔力を込めていることもあり、怪我も治癒しやすい。
あの程度なら数日で完治する。
翌朝。黄金の瞳が閉じられている間に、傷の手当てを施していたところ、彼が目を覚ました。
「ん……」
朝陽を浴びた瞳はさらに輝きを増し、太陽そのものかのようにまぶしい。フローラの心臓がまたしても大きな音を立てる。
包帯を巻いている腕に視線が降りてきた。
「魔女の薬です。き、きっと、早く治ります」
「……そうか。ありがとう」
そう呟いた彼は消え入りそうな声だったが、うっすらと微笑んだその顔にフローラは釘付けになってしまったのだった。
それ以来、フローラは彼が寝ている時に彼の世話を済ましてしまうよう努力した。
あの金の瞳に見つめられると、心臓がバクバクと鳴るからだ。
次の日には頭の打撲痕がほぼ消えた為、腕と足の包帯を巻き直す。薬がよく効いているようで、彼はよく眠って回復していった。
だが、食事は別だ。
起きている時にしか与えられず、毒で弱った身体をあまり動かせない為、こちらが小鳥の餌やりのように一口ずつ運ばねばならなかった。
フローラは、この時間が最も苦手だ。
今もドギマギしながら、柔らかく煮た野菜を、一口ずつ口に運んでいる。その間もじっと見つめる二つの瞳に身が縮まっていく。
「君の髪は美しいな」
「貴方のそのシルバーの髪の方が素敵です……」
「そうかな。私の色のない髪よりも、君の可愛らしいピンクブラウンの髪の方が好きだ」
髪のことを「好きだ」と言われただけなのに、顔がボンっと赤くなったと思う。
母以外に「可愛い」と言われたことなど当然ない。
「大きな紅の瞳も美しい」
「そ、そんなっ」
「照れる姿も愛らしいな」
免疫のない褒め言葉達に、口をパクパクしながら赤面するしかなく、フローラは翻弄されてばかりだ。
「私を助けてくれて礼をいう。いつになるか分からないが、生き残ることが出来たら、君に礼の品を贈ろう」
「あ、ありがとうございます」
少しの会話でさえも緊張する。スープを飲むその口元さえ美しい彼は、神々しい。そして黄金の瞳には、なんとも形容し難い威厳があり、目が合うたびに圧倒される。だが、その瞳が細められ、感謝を述べられると、胸がキュウっと軋むのだ。
(やっぱり私、病気なのかもしれない。それとも、慣れない浮遊魔法を使ったせいで、身体に負担がかかったのかしら)
フローラはベッドで寝ているだけのはずの来客に翻弄されてばかりだ。
彼は何者なんだろうか。だが、その答えは怖くて聞けない。聞いてはいけない気がして、彼の名前さえ尋ねられないままだ。彼からは名乗られないので、魔女には名乗れない程の高貴な身分なのかもしれなかった。
彼には頭部に殴られたような痕があり、肩から腕、太腿には剣で斬られた深い傷がある。
高貴な身分なのだろうが、命を狙われるとすれば、犯罪者だったりするのだろうか?
だが、あの美しい黄金の瞳を思い起こすと、そんな人には見えなかったな、とフローラは思った。
(とにかく今は死なないように治療して、さっさと出て行ってもらわなくちゃ)
人間がこの家にいる限り、クロ様には会えないだろう。幸い、魔女の薬は魔力を込めていることもあり、怪我も治癒しやすい。
あの程度なら数日で完治する。
翌朝。黄金の瞳が閉じられている間に、傷の手当てを施していたところ、彼が目を覚ました。
「ん……」
朝陽を浴びた瞳はさらに輝きを増し、太陽そのものかのようにまぶしい。フローラの心臓がまたしても大きな音を立てる。
包帯を巻いている腕に視線が降りてきた。
「魔女の薬です。き、きっと、早く治ります」
「……そうか。ありがとう」
そう呟いた彼は消え入りそうな声だったが、うっすらと微笑んだその顔にフローラは釘付けになってしまったのだった。
それ以来、フローラは彼が寝ている時に彼の世話を済ましてしまうよう努力した。
あの金の瞳に見つめられると、心臓がバクバクと鳴るからだ。
次の日には頭の打撲痕がほぼ消えた為、腕と足の包帯を巻き直す。薬がよく効いているようで、彼はよく眠って回復していった。
だが、食事は別だ。
起きている時にしか与えられず、毒で弱った身体をあまり動かせない為、こちらが小鳥の餌やりのように一口ずつ運ばねばならなかった。
フローラは、この時間が最も苦手だ。
今もドギマギしながら、柔らかく煮た野菜を、一口ずつ口に運んでいる。その間もじっと見つめる二つの瞳に身が縮まっていく。
「君の髪は美しいな」
「貴方のそのシルバーの髪の方が素敵です……」
「そうかな。私の色のない髪よりも、君の可愛らしいピンクブラウンの髪の方が好きだ」
髪のことを「好きだ」と言われただけなのに、顔がボンっと赤くなったと思う。
母以外に「可愛い」と言われたことなど当然ない。
「大きな紅の瞳も美しい」
「そ、そんなっ」
「照れる姿も愛らしいな」
免疫のない褒め言葉達に、口をパクパクしながら赤面するしかなく、フローラは翻弄されてばかりだ。
「私を助けてくれて礼をいう。いつになるか分からないが、生き残ることが出来たら、君に礼の品を贈ろう」
「あ、ありがとうございます」
少しの会話でさえも緊張する。スープを飲むその口元さえ美しい彼は、神々しい。そして黄金の瞳には、なんとも形容し難い威厳があり、目が合うたびに圧倒される。だが、その瞳が細められ、感謝を述べられると、胸がキュウっと軋むのだ。
(やっぱり私、病気なのかもしれない。それとも、慣れない浮遊魔法を使ったせいで、身体に負担がかかったのかしら)
フローラはベッドで寝ているだけのはずの来客に翻弄されてばかりだ。
彼は何者なんだろうか。だが、その答えは怖くて聞けない。聞いてはいけない気がして、彼の名前さえ尋ねられないままだ。彼からは名乗られないので、魔女には名乗れない程の高貴な身分なのかもしれなかった。