悪党みてぇな貴族だった俺、転生した現代で小動物系美少女をふる
 いつだったか、二人目の子供が乗馬を始めた頃に、こちらが作ってやったクッキーをかごにつめて、大きな木がある丘にピクニックに行ったことを思い出した。


 二人の子供たちが走り回っている様子を、芝生の上に楽に腰を下ろして眺めた。お腹は平気なの、と彼女が尋ねてきて、どうしてと尋ね返したら「だって、あなた昨日私が作った物を、また全部食べてしまったんですもの……」と瞳を潤ませていた。

 とても食べれたものじゃなかった。いつもそうだ。彼女は料理に関しては妙な才能を発揮し、優秀に立ち回る執事さえ絶句させる一品を作った。奥さま頼みますからどうか、という彼の言葉をよく聞いた。
 彼女の菓子を一口齧った料理長と使用人の一部が、今にも転げ回りたそうな動きをどうにか堪えている様子は面白かった。旦那様は表情筋がないのか、舌がおかしくいらっしゃるのでは、と言われて、いつも通り「不味い」と答えながら食べた。

「九条君、調理実習でクッキーを焼いたの」
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