悪党みてぇな貴族だった俺、転生した現代で小動物系美少女をふる
 けれど、とてもふわふわと幸せな気持ちがしていた。今でもそのドキドキが胸に残っている。
 もう一度、あの暖かくて大きな身体を感じたい。そう思った。

 あれは自分からぎゅっとしたわけではないから、『ぎゅっとしたい作戦』はカウントに含まれないと思うのだ。だって、まだ彼を抱き締められていない。彼の胸に飛び込んで、あの背中にまで手が届くのなら、とても幸せな気がした。

 どうしてか、こんなにも恋しい、と感じる時がある。どうして彼がそばにいないのかと、時々理由も分からずきゅぅっと胸が寂しさを覚える時もあった。
 沙羅は、ぼんやりと寝着のシャツの胸元を握り締めた。


 たぶん、とても、とても恋をしているのだと思う。

 初めて目にした時から、彼がこちらを振り返って小さく目を見開いた顔が、目に焼き付いて離れないでいる。あの一瞬、沙羅は呼吸を忘れたのだ。
 

 彼に愛されたのなら、どんなに幸せだろう、とあの時に思った。
 あの人だけの特別な女の子になれたのなら、と願った。
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