悪党みてぇな貴族だった俺、転生した現代で小動物系美少女をふる
「つまらない夢を見たな……」

 遠い昔の、別の世界で生きていた頃の記憶だ。成長するにしたがって前世の頃を夢見ることなんてほとんどなかったのに、ここへきて結婚前のつまらないワンシーンを思い出したものである。
 より安定した大きな資金と、生粋貴族とのパイプ。そして後継者と社会的立場を強化するために、あの数年後に十歳年下の彼女のことを知って、俺は――

 そう思い出し掛けて、理樹は「今更なに回想してんだ」と鼻で嗤った。

 前世の記憶なんて必要ないものだ。たまたま生まれ変わって、そして彼女と同じ年で再会するなんてことは数奇な巡り合わせだろう。だからこそ『好き』を向けられるだなんてことは、有り得ないとも思っている。


 十歳も後に生まれて、自分よりも数十年も早くに死んだ。
 運命は繰り返すだとか、迷信なんて信じない。そんなゲームみたいな話があってたまるか。


 けれど理樹は、自分の馬鹿らしさに嗤いながら、知らず拳を固めていた。
< 55 / 237 >

この作品をシェア

pagetop