漆黒に秘めた想い
 夜の闇に包まれた小道。
 灯りもなくすでに人も馬車もない道を、一人の少女が小さな灯り一つだけを頼りに家を目指す。

 母の病気の療養先へ行った帰り道だった。


 風も無い。
 物音すらもない。

 思わず自分自身の足音に驚き、そのまま足を止めてしまう。

 そして恐る恐る振り返ると、近くでスッと現れた黒い影がゆっくりとこちらに向かって動き出した気がした。

「ひっ…!…だ、れ…!?」

 思わずそう口に出てしまった。

 人間ではないことは雰囲気でも分かる。
 しかしその表情も見えないはずの影が、意思を持ってこちらを見ている気がしたのだ。

 次の瞬間、霧のような闇が突如彼女を覆い、叫ぶ間もなくそのままその姿は掻き消えた。


 気付けば闇の中。
 自分の姿すらも見えないほどの。

 いま分かるのは、柔らかな何かに自分の体を横たえているということだけ。

 あまりの恐怖に声も出ず、身じろぎも出来ない。
 少しでも体を動かせば、何も見えず底無しの闇の中に落ちていってしまう気がした。

『…染めてあげる…』

 静かな声がした。

 自分と歳が変わらないほどの少年なのか、もう少し上なのか…

 しかしこんなところにいるのが人間のはずはない。
 そしてその声は自分の体全体に染み込むような、そんな今までに無い不思議な感覚で聞こえたような気すらする。
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