漆黒に秘めた想い
 少女は重ねてそう、まだいるのかも分からない“彼”に向かって問う。

 すると、少女の体は何かに包まれるように温かくなる。“彼”に抱きしめられたのだと思った。

『…君が消えるなんて…』

 消え入るような声。

 闇に取り込まれたら自分は消えてしまう。
 少女は“彼”のその言葉でそう理解し、震える声で願った。

「ね…“わたし”でいたい…もしあなたを好きになれたら、“あなたを好きになれたわたし”でいさせて……」

『…僕もそう、願ったんだ…君を好きな“僕”でいさせてほしいと…』


……

 まだ幼い少女は、迷い込んだ暗がりで一人泣いている。

 その時聞こえた“誰か”の声。

『…君が好き…』

 少女は顔を上げる。

「…だあれ?」

 怯える少女の問いに“声”は言う。

『“僕”は誰だろう?でもね、君が好き…』

 その言葉に少女は泣き止み、笑った。

「…ほんと?わたし、すき…?わたしをすきなあなた、すきよ。」

 少女にその“声”が言った意味はよくわからない。
 しかし、自分を好きだと言ってくれる、姿も見えないその相手の言葉を少女は信じたのだった。

『ね、“僕”でいてもいい?君から姿は見えないかもしれないけれど…。君が好きな、“僕”でいたい…』

「わたしをすきでいてくれるなら、いいよ…!」

 少女はそう答える。

『ありがとう、僕の好きな君……』

 次に聞こえた嬉しそうなその“彼”の声は遠くなり、少女の周りを包んでいた闇の中に小さな光が見えた。

………
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