NGなきワル/バイオレンス長編作完全版!👉自らに過酷を課してのし上がったワルの非情とどうしようもない”ある焦がれ”…。
その2


武次郎もまた、兄ノボルを信頼しきっていた。
いや、ノボルだけを…。

ノボルと武次郎…。
二人はこの時、21歳と19歳だった。
だが彼らはもう4年前から二人きりで生活していたのだ。

彼らのお金を得る手段…。
それは信じられないことに、”金貸し業”だった…。

「それも承知してるって。椎名とは密なやり取りは欠かさんし、歩調は合わせていく。ヤツも言っていたが、これからの時代、オレたちを取り巻く環境は激変するだろうし…。そこに鈍感では時代の先端には立てない。だろう、兄貴?」

「その通りさ。そこを見定めて、オレはなるべく多くの地を踏む。そして、それぞれの土地で実りを得てくるつもりだ。実経験・人材・知恵…、”それ”を持って横浜に戻った時、オレたちのアクション・プログラムはスタートを切る…」

「フフ…、急がば回れか…。まあ、”お楽しみ”にはそりゃあ時間がかかるさ。オレ達の到達点はそれだけ高いってことだしな」

ノボルは脂ぎった笑みで、異母兄弟6人の中、唯一”通じる”武次郎とアイコンタクトを交わしていた…。


...


「おや…?蛍光灯が点滅か…」

武次郎が畳6帖を照らす天井から吊るされた照明を見上げ、そう呟いた。

「フフ…、オレ達もようやく裸電球から卒業したんだな…。こんな安物の吊り下げ照明でもシャンデリアに見える」

ノボルは相変わらず両肩を尖らせたまま、しんみりめであるべき言葉も機械的だ。

「…だが、オレ達は年端もいかない中学のガキだったのによう、生計を立ててたんだしな。あの裸電球も二人の稼ぎで明かりがともされてた。当然、電気代も払ってたから点いてた訳だが…」

巨漢の武次郎も決して感傷的になどなるのそぶりは見せず、ただ淡々と回想するに留まっていた。


...


「まあ、十代半ばのお子様がよう、金貸しだもんな。もっとも、オレ達的には”立替え業”だったが…。その金利というアガリで4畳半ひと間を間借りして、いっぱしの社会人気取りだ。だが、オレたち二人は肩を寄せあいなんて湿っぽさは露ほどもなかった。堂々と稼いで、将来に向かっていた…」

兄ノボルは、ストーブの赤い熱線にじっと目を止め、雑談調でそう語っていた。

「ハハハ…、そうだよ。まさに堂々と金融業だったわ。他の奴らじゃあ、思いもつかないし逆立ちしてもできないことを、オレ達は中学の時分からやってきたんだ。それが原点だし、今もこれからもそれがベースになる…」

「フン…、”あの体験”をベースにはしていく。でもよう、そのベースは金を立て替えて、金利の利ザヤをとるってスキームじゃあない。人と組む、人を使う、それ以前に人を掘り当てる…。こっちだぜ、肝心なのは」

ここでノボルはやや顔をこわばらせ、武次郎に目線を向けた。





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