NGなきワル/バイオレンス長編作完全版!👉自らに過酷を課してのし上がったワルの非情とどうしようもない”ある焦がれ”…。
その3


「そうだったな。何といっても、第一は人だ。それがあって、あの年で資金も調達できたし、稼ぎの土台も得た…」

武次郎がそう言うと、ノボルは小さく頷いて表情を和らげた。

リトルブラック…。
中学を中退し、金貸しをベースとした短期立替え商売を展開、横浜市内の界隈で暗躍していた幼き大打兄弟を、周囲はそう呼称した。

二人のキーワードは、モア・ヒート、モア・クール…。
濃たる執着という情熱を以って、冷静に冷淡に人を見切る眼を宿すこと…。

その目線を日常のスタンスに透過させること…。
”それ”に徹せたが故、この兄弟には大人でも捉えられないほどの”人の芯”をも見透かすことのできる、言わばX線機能を持ち得るに至ったのだろう…。


...



大打ノボルの秘められた黒い意思~日本各地で研磨の日々
リトルブラック③


”フン…、我ら大打兄弟のリトルブラック時代は、所詮、幼虫の過程期さ。お遊びさ、あんなもん…。あれからオレたちは、成長と進化を同時に体現していったんだ。あくまで、時代の流れに沿って…。今、成虫と化しつつあるオレらは既にやくざモンと同等を張っている…。そしてその捕らえる目線は、オレ達の方が最先端なんだ。そこでは、奴らの上を行ってる…。フフフ…、オレの全国行脚は、奴ら極道のテッペンどもをも、こっちの描く絵図にはめ込んで行く道程への第一歩さ…”

大打ノボルは横浜を発つ前夜、そう胸に誓って11時半前には眠りについた。


***


翌朝、9時前に鶴見市郊外の某ドライブインで、ノボルは椎名彰利と落ち合っていた。

椎名は大打兄弟とはいわば竹馬の友で、年は武次郎と同い年だった。
この3人は、小学校中学年の時分から”行動”を共にしていたのだ。

その3人から始まったブラック・ロードは、ノボルの言をなぞれば、成人に達した彼らは自負通り、成虫への途に着くに至り、およそ10人の構成人員を生成していた。
すなわち3人の関係はもはや、ビジネスを共にする仲間だった。
それも極めてコアな…。


...


「…わかった。熊本市内に入ったら、この連絡先に即電話する。三貫野ミチローだな…。ふふ…、その男のことはお前から今まで、さんざん聞いているからな。概ねイメージは浮かぶ。会うのが楽しみだ…」

ノボルは椅子に深く仰け反った態勢で、咥えタバコから漏れる煙に顔を覆わせながら、乾いたトーンでぼそりとそう言い放った。
だが、カレのその言葉にはどこかギラつき感を宿した、何ともねっとりとした感情も発せられていた。

「…ヤツにはこっちでの”オレたち”は、万事伝わっていますから…。即、行動に入れます。ノボルさんも一目見たら、ヤツを気に入りますよ」

椎名はタバコの煙でノボルの顔がぼやけていたが、彼の心の中はくっきりと把握できていた。


...


「まあ、中学のガキだったオレ達兄弟が、立替え業を”開業”できる資金を調達してくれたお前だしな。その椎名が生まれ故郷の九州を離れても、ずっと繋がってこれた男だ。間違いなくオレ達ののパートナーになれるだろう」

ノボルのこの言葉を受け、テーブルを挟んで正面の椎名は薄笑いを浮かべていた。
そしてその胸の内では、こう呟くのだった。

”まさしくだ。ノボルさんと三貫野のコンタクトは、オレたちの野望を一気に次のステージへと上げてくれることだろう…”




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