NGなきワル/バイオレンス長編作完全版!👉自らに過酷を課してのし上がったワルの非情とどうしようもない”ある焦がれ”…。
その4


そしてその日、もう一人、幼少から共にリトルブラックの同志として歩んできた武次郎の同級、椎名彰利と鶴見でこれからのロードを誓いあうことになる…。

”思えば…、オレはローティーンの頃から、この人と途方もない野望を共にして歩んでいたんだな…”

椎名は今日、自分の生まれ故郷である熊本へと向かう”兄貴分”大打ノボルの、冷めた中にも微妙に晴れ晴れしい面持ちを目にして、リトルブラック兄弟を間近で目撃し続けてきた現実を噛みしめていた

一方…

見送られる側の大打ノボルもまた、ヨコハマドリームとも言うべき、自らのリトルブラック・ロードを思い起こすにつけ、目の前の椎名の存在というものを改めて心に刻むことを自身に課さずにはいられずにいたのだ


...


「…しかし兄貴…、彰利はオレ達の福の神だったよな。何しろ、住む場所と軍資金を親に融通させてくれた…。今振り返ってもあり得ねえだろ、こんなこと…」

「武次郎…、人への感謝など、いつでもできる。今はその時期じゃねえぜ。オレ達にセンチメンタルは害毒以外の何も度でもない。わかってるよな?」

「ああ、承知してる。そのくらいのことは。だがよう、事実は曲げられれねえぞ。あの時、オレの気の合うツレだったヤツが”それ”をしてくれなかったら…。ハマの叔父さんからの25万だけじゃあ、実際、”自立”はムリだったと思う。違うか?」

「違わないさ。だが、”そこ”に椎名を動かせたのは、オレ達の裁量だ。いや才覚だな。ふふ…、それを一番知ってるのが他ならぬヤツってこった。だから、今回の九州行では三貫野って幼馴染をセットしてくれた。お前だって、三貫野がどんなヤロウか、概ねイメージはわいてるだろう?」

「ああ…。間違いなく俺たちのパートナーの意なり得るドライガイだな。兄貴…、だからこそよう、オレ達の誘導こそあれ、彰利のことはやはりなあ…」

「…」

大打ノボルはこれ以上、答えなかった

”武次郎…、お前はそれでいい。だが、オレはそこにはNGってことでないとな。オレ自身の土台が萎えてしまうんだ”

彼は武次郎をストーブ越しに無表情で見つめながら、そう自己へと生真面目に強弁していた…


...


リトルブラック軍団のリーダー、大打ノボル門出の日…。

面と向かう彼と椎名は二人とも、必然とあの日のこと、同じあの寒かった夜を回想していた…。

”思い出さずにはいられない…。あの日の夜10時過ぎ…、凍えるような寒さに肌をブルブル震わせていた二人を、オレは理由抜きにそれ以上冷えさせたくなかった…。そんな思いから、オレは親に訴えていたな…”


...


「お父さん!武次郎兄弟二人は外で寒さに凍えてるよ。せめて離れの作業小屋に入れてやってよ」

当時小学5年の椎名彰利は、あらん限りの純白な心に従って、畳職人の頭の禿げかかった父親に訴えていた。
武次郎は、自分が九州からここ神奈川に転校した小3から、サイコーに気の合う悪友仲間だった。

”そうさ…。武次郎は九州からこの横浜に転校してきたオレにとって、”幼な心”が通じ合った唯一の悪友だった。ふふ…、オレ達二人のその悪友関係は、互いに阿吽のドライな絆がパイプラインのように二人を貫通していたな。不思議な感覚だった…”

彰利のその思いは、まさに偽らざるべき、自身の心が語るそのまんまに他ならなかった。


...


”武次郎はあの巨体で、九州の田舎モンのオレを小バカにする人間には、文字通り体を張ってオレのプライドを守ってくれた。そんな男気…、ただそれは、ドライそのものだったな…”

武次郎は九州からやってきた田舎モンの彰利を、理屈抜きで気に入った

そのカレを、ヨコハマを気取って上から目線で自己上位の低レベルなガキの世界のヒエラルキーを手繰り寄せる器用な同級生どもには、その心の丈が許容しなかった

武次郎はただ、そいつらを駆逐した。
それは躊躇など微塵もなくのレベルで…。

その結果…、九州からの新参者・椎名彰利は、その界隈では豪名を轟かせていた巨漢・大打武次郎、不動の”相棒”の座を射止めることとなる…。





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