NGなきワル/バイオレンス長編作完全版!👉自らに過酷を課してのし上がったワルの非情とどうしようもない”ある焦がれ”…。
その6


「…ねえ、あんた…。彰利には私たちの都合で故郷を離れてこんなごみごみしたとこに引っ越して、転校させてさ…。不憫かけちゃんんだしねえ…。武次郎君だけが、この子とよく付き合ってくれたのよ。なんとか、力になってやれんかねえ…」

”あの夜…、おふくろはおやじに、そう言い寄ってくれてたわ。武次郎とオレは年上にも媚び売らなかったんで、年中、因縁つけられて絡まれてたんだが、決して引かなかった。だから、たいていは2対5とか時には2対10数人とか、ハンディキャップマッチでケンカして、いつも傷の手当はおふくろがしてくれてた…”

「おばさん、いつもすいません。こう年中じゃあ、薬代もばかんなんないですよね。いつか、きっと払いますから、オレ…」

”今思えば…、武次郎はオレのおふくろには妙になついていたな…”

...


”一方のおふくろも、そんな図体のでかい一人息子の同級生を偉く気に入っていたわ”

「いいのよう、そんなこと…。それより、ただ一人彰利の味方になってくれて、武次郎ちゃんには感謝しておるのよ。これからもよろしく頼むわね…」

「はい!彰利とオレ、今にこのハマで肩で風切ってのし上がっていこうって誓い合ったんです。それで稼いだお金、おばさんにもちゃんと回しますから…」

「まあ!そんならねえ…、おばさん、そのこと楽しみにしておくわ。うふふ…」

”あのおふくろの笑顔はとにかくなんともで、印象深く覚えてるわ…”

...


「ああ、そうだ!オレの二つ年上の兄貴にも今度会ってくださいよ。いつもお世話になってるんで、一度あいさつしないとって言ってましたんで」

「そう…、じゃあ、こんど夕飯でも食べに連れてきなさいな。そうよね…、武次郎ちゃんとこはご両親とは暮らしておらんからね…。お兄ちゃんが頼りよね、そりゃあねえ…」

したたかな計算…

この椎名は幼い当時から、巨漢の大打武次郎にも兄ノボルに劣らぬ人の合間に入り込む、その身に着けているしたたかさを冷静に見極めていた…





< 147 / 174 >

この作品をシェア

pagetop