親が体験した怪奇譚/短編ホラー集ー家族愛編ー
その4



「夕方のS駅ロータリーで、日本刀を持った男による無差別殺傷事件が起きて…、3人即死させ現行犯逮捕されたその男が永田義男だった…。私は自宅のテレビの前で、気を失いそうなくらい驚いたわ。私の予期したのは加害者の放つ気だったのよ…!」

母は低い声でそう語ると、大きくため息をついて下を向いてしましました。

まさか、母がこんな体験をしていたなんて…。
私は愕然としながら、心の中でそう呟きました。

この時母の受けたショックは計り知れません。
母はショックのあまり仕事も手につかなくなり、パートを辞め、精神的にも支障をきたしたようです。

その結果、夫婦間にも亀裂が生じて、私が小学校に入ると両親は離婚しました。


...


「母は私がそういう力があることは知っていたし、自分も私ほどではなくとも”見る”ことができたので、私を気遣ってくれて、いろいろ相談にも乗ってくれてね。結局、見えたことは見なかったことにする。それが無難だという結論に落ち着いて、子供の頃あなたと外へ出た時は、お母さんの態度に不快感を感じたことでしょうね。それに、お父さんと別れたことも…。ゴメンね、瑛子…」

「お母さん…」

私は母が不憫でなりませんでした。

自分が良かれと思いながら、苦しんで勇気を出して見えたことを告げても、予期を感じた不幸を避けることができない無力感は言葉にできなかったでしょう。
更にその苦しみは自分だけでなく、周りの家族も巻き込んでしまって…。

「100%はっきりわかる訳じゃないのに、それを告げるのは言わば賭けになるし、それなら無視する。あれ以来、それを続けてきたわ。たぶん、無視しなければ予期通り起きた何らかの災いを未然に防げたこともあったでしょう。でも、その逆だっていっぱいあったと思う。果たして、お母さんの決断は正しかったのか、今でも自信がない…」

母は力なく俯いたまま、呟くように私に語っていました。

「お母さん…」

私は何と言葉をかけていいのかわかりませんでした…。





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