親が体験した怪奇譚/短編ホラー集ー家族愛編ー
その2



そして母の口から飛び出したのは、小学生だった頃の話だったのです。

「あれは私が小学校5年の時だったわ。”我が家の珍品"にまつわるエピソード”っていうテーマで、作文の授業があってね。私は日めくりカレンダー365日全部めくり終わった後の台紙を持っていったの」

母の家ではハガキ程度の大きさの日めくりカレンダーを居間の柱に吊って、毎朝、家族5人が順番に前日の曜日をめくるのが習慣だったそうです。

そして、翌年の元旦、前日、つまり前年の大晦日をお父さんがめくり、無地の台紙に家族みんなで過ぎた1年について一言づつ書き込み、その台紙は毎年保存するという訳です。

母は、そんな我が家の日めくりカレンダーの習慣を作文にして、学校には昨年の台紙を持って行ったそうです。
そして、見事、クラスの最優秀賞に選ばれたんです。

ところが、母はそのことで、いじめっ子グループから妬みを買い、嫌がらせを受けることになりました。

いわば、母の不思議な体験はそれがきっかけとなったのです…。

...


「その作文の授業があった数週間前、男子の転校生がお母さんのクラスに編入してきたの。エイジ君って名で、色黒の足が速い子でね。何でも、お父さんが世界中を回る仕事で、お母さんはいないってことだったわ」

不思議な体験は、このエイジという転校生によって導かれたようです。

「…それで、お父さんのお兄さんと暮らしてるそうなんだけど、そのおじさんに当たる人も年中転勤があるらしく、転校を繰り返してるって先生から紹介されてたわ」

エイジ君は、世界中を回ってるお父さんが赴いた国の占いカードを買って来た中から、一番お気に入りであるメキシコのカードを持参したそうです。

「このカードを持って学校へ行くと、魔除けになるそうで、そんな過去の体験を作文にしていたわ」

「魔除け…」

思わず私はそう呟いていました。


...


「私がクラスで1番になると、男女数人のいわゆるいじめっ子グループが、作文とは全く別のことで嫌がらせをしてきたの。給食をよそう時におかずを少なくされたり、一緒に下校する友達を無理やり誘ってお母さんを一人ぼっちにさせたり、結構えげつなかったわ」

お母さんは特にいじめられっ子ではなかったそうで、友達も多かったのですが、いじめっ子グループはクラスを組織化してかなり陰険に仕掛けてきたそうなのです。

「なんかね、仲のいい子も一人また二人って感じで…。さすがに私もある時、みんなの前で泣きだしちゃったの。そしたら、その日の帰り道、一緒に帰る子を途中で奪われて一人で下校していたんだけど…。そこへエイジ君が声をかけてくれたの」

エイジ君はなんと、例の魔よけのカードを母に差し出したそうなんです。



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