親が体験した怪奇譚/短編ホラー集ー家族愛編ー
その7



「…転校した学校に行く度、そんな光景を突き付けられた彼は、決して長くないその学校にいる間、何かを残したい…。そんな思いから、目にしたいじめに虐げられる新しいクラスメイトに手を差し伸べたのかもね」

彼は新しい学校をめぐる都度、その輪を大きくしようと願ったのでしょう。
それなのに、母の一級上の子はこともあろうに、彼からのカードを自分が強者に立つために利用し、お母さんはカードをびりびりに破られてしまったと…。

母はもしかすると、そのことに懺悔の念を抱いて、長い間苦しんできたのかも知れません。

...


「ミチヨ、今日、あなたにはこれを受け取ってほしいの…」

ここでお母さんはバッグの中から小さい紙状の包みを取り出すと、包装紙を広げてテーブルの上に置きました。
それはケータイ電話サイズの一枚のカードでした。

そう…、”それ”は、エイジ君から託されたカードだったのです。
びりびりに破られたカードはセロテープで繋がれ、それ曲がって劣化していましたが、長年の間、大事に保存された様子が覗えました。

母はあの後ずっと、このカードを手放さないで持ち続けていたのです。


...


「お母さん、でも、それは…」

私はやはりためらって、即返事ができませんでした。

「あなたはさんざん苦労して、今はジャーナリストとして弱者の目線で世の中に発信しているんでしょう?それなら、このカードに寄せたエイジ君の思いを汲みとって、いじめとかの問題にも取り組んでほしいの。お母さんのその想いを、このカードに込めて娘のあなたに渡しておきたいのよ」

「…お母さん、わかった。エイジ君の願い描いたことを自分なりによく消化して、いじめの問題を掘り下げてみる。そしていつか、世間にそのメッセージを送るよ。このカードは私がお母さんからバトンタッチする」

母はにっこり笑ってくれました。


...

今や日本は、まぎれもなく現代のいじめ大国です。
加えて、弱肉強食・市場主義社会の世相がダイレクトに子供の世界に反映し、自己責任の理論がはびこっています。
その延長で、弱者に対しても自助努力を強いる風潮が根付いてしまっています。

数十年前、当時わずか12歳のエイジ君が、自分の持つ稀な能力を以って願い描いたことは尊いことです。
まさに命を削ってまで...。
結果として彼は、言わば殉死したとも言えないでしょうか…。

その彼の清い心が染み込んだ、このテープ張りの一枚のカード…。

私はこれから以後、ジャーナリストとして何に取り組んでいくべきか、このカードに問いかけ続けることになるでしょう…。



ー完ー


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