親が体験した怪奇譚/短編ホラー集ー家族愛編ー
第5話/手ぐせ
その1
1年前…。
当時の私はその年中学校2年になった長男をめぐって、ある悩みを抱えていました。
その日は長男が万引きで補導されて、今、まさに学校側の処分を待っているところだったのです。
夫は船乗りで家におらず、メールで一報を入れましたが、何分心細いので同じ県内に住む私の母には、その日のうちに家に来てもらいました。
...
「ゴメンね、お母さん…。全くみっともないったらありゃしないわ。なんか翔太、常習の可能性もあるらしいの…」
私はキッチンのテーブルに両肘を着いて頭を抱えていました。
「美穂、落ち着きなさい。翔太にはよく話を聞くのよ。愛情を持ってね…」
その時、まだ細かく話を聞き質す段階ではないと判断し、長男の翔太は2階の自室で一人にしていました。
「ねえ、美穂…。圭祐さんもいないことだし、翔太がこういうことになった今、あなたには告げなければならないことがあるの…」
母はおもむろに、あらたまりました。
そして、”あのこと”を知らされたのです。
...
「…お父さんが事故で急に亡くならなかったら、あの人、自分の口で美穂には伝えたと思うけど…」
父は2年前、トラックとの交通事故に遭い即死しました。
ちょうど定年を間近かにした父とは予期せぬ決別で、ただでさえ無口だった父と、もっと話をしておけばよかったと悔やんでいます。
しかしこの夜、母の口から父が生前に娘の私へ告げるはずだった”言葉”を聞くことになります…。
1年前…。
当時の私はその年中学校2年になった長男をめぐって、ある悩みを抱えていました。
その日は長男が万引きで補導されて、今、まさに学校側の処分を待っているところだったのです。
夫は船乗りで家におらず、メールで一報を入れましたが、何分心細いので同じ県内に住む私の母には、その日のうちに家に来てもらいました。
...
「ゴメンね、お母さん…。全くみっともないったらありゃしないわ。なんか翔太、常習の可能性もあるらしいの…」
私はキッチンのテーブルに両肘を着いて頭を抱えていました。
「美穂、落ち着きなさい。翔太にはよく話を聞くのよ。愛情を持ってね…」
その時、まだ細かく話を聞き質す段階ではないと判断し、長男の翔太は2階の自室で一人にしていました。
「ねえ、美穂…。圭祐さんもいないことだし、翔太がこういうことになった今、あなたには告げなければならないことがあるの…」
母はおもむろに、あらたまりました。
そして、”あのこと”を知らされたのです。
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「…お父さんが事故で急に亡くならなかったら、あの人、自分の口で美穂には伝えたと思うけど…」
父は2年前、トラックとの交通事故に遭い即死しました。
ちょうど定年を間近かにした父とは予期せぬ決別で、ただでさえ無口だった父と、もっと話をしておけばよかったと悔やんでいます。
しかしこの夜、母の口から父が生前に娘の私へ告げるはずだった”言葉”を聞くことになります…。