婚約破棄された追放聖女は、皇太子と二度目の婚約をする【短編】
「言葉は覚えてるんだけれど、皆の願いが届きますようにって考えながらだと、うまく言えなくなっちゃって……不器用なのかな私。考えていることと口に出すこととを分けることができくて……」
 他の巫女みたいにすらすらと祈りの言葉を言えないなんて。
 ぽんぽんとレオン様がまた頭をなでる。
「そうだな。お前のいいところは、口先だけの言葉ではなく気持ちを込めるところだ。悪かった」
 レオン様が謝罪の言葉を口にした? 
 びっくりして顔を上げると、長い前髪の隙間から王子様のような目が私をまっすぐ見ていた。
「ごめんなさい……うまくできなくて……」
 駄目だ。泣いちゃダメだ。
「なっ、泣くことはないだろう。悪かったと言っているのに」
 でも、だって……。あの時、もし祈りの言葉がうまく言えてれば聖女でいられたかもしれないから。

 婚約破棄されたあの時の出来事を思い出す。
 王宮礼拝堂で陛下が見守る中、
 貴族たちの願いをかなえるための祈りをささげることになった、あの時。私は見事に祈りの言葉を何度もつっかえてしまったのだ。
「ほらご覧になって。祈りの言葉さえもうまく言えないんですのよ? 本当にそんな人が聖女だとお思いになって?」
 突然現れたソフィア様の言葉が王宮礼拝堂に響いた。
「ソフィアの言う通りだ。陛下、これで分かっていただけましたか? この女が聖女を語る偽物だと。真の聖女は、我が愛しのソフィアだということを」
 これまたどこから現れたのか、皇太子殿下がソフィア様の肩を抱いて祭壇上に上がってきた。
「どうぞ陛下。この場を持って、偽物の聖女であるミラとの婚約を破棄し、真の聖女であるソフィアとの婚約をお認めください」
 祭壇の奥には陛下と皇后陛下が座っている。そのさらに奥に神像は置かれている。
 王宮礼拝堂で祈りをささげるには、両陛下と神像に向かって跪く必要があった。
< 4 / 23 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop