婚約破棄された追放聖女は、皇太子と二度目の婚約をする【短編】
 そして礼拝堂の中には、名だたる貴族たちが祈りをささげている。
 何度か顔を合わせたことはあるとはいえ、陛下を前に緊張するななんて方が無理だよ。ただでさえ祈りの言葉を口にしながら祈ることが苦手なのに……。たくさんの貴族も見ているし……。
「ふむ。……そなたはどう思う?」
 陛下が妃殿下に目を向ける。
「ミラは庶民でしょう? 庶民が聖女など、おかしいと思っていましたのよ。偽物であるというならば偽物なのでしょう。聖女を皇太子妃にと言われたから我慢しておりましたが、私のかわいい息子が庶民と結婚することが無くなり正直ホッといたしましたわ」
 妃殿下がぎっと私をにらみつけた。
「恐れながら、陛下発言をよろしいでしょうか?」
 礼拝堂に集まった貴族の一人が手を挙げた。
「発言を許す。ここに集まった他の者も自由に発言してくれて構わぬ」
 陛下の言葉に、顔を上げて一人の貴族が口を開いた。
「ミラ様が偽物の聖女と申しますが、医者にも治せなかった妻の病を治していただきました」
「私の領地では祈りを捧げ不毛の土地を改善していただきました」
「我が子の呪いを解いていただき、歩けなかった子が今では元気に走り回っております」
 私をかばうような言葉が次々に貴族から上がる。
「あら、そのようなことは、聖女でなくとも、巫女にもできることではありませんこと?」
 王妃様がソフィア様に尋ねる。
「ええ、もちろんでございますわ」
 ソフィア様の言葉に、貴族がもごもごと何か言いたそうに口を動かす。
 ああ、彼のことは覚えている。高名な巫女様にお願いしたけれど妻の病は治らなかったと嘆いていた人だ。癒しと浄化を同時に施したら治ったので、頼んだ巫女は癒しだけだったのかも。
「巫女と一言にいいましても、力の強い者もいれば弱い者もいます。ミラはそれなりに力が強かった、ただそれだけのことでしょう」
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