時間が戻った令嬢は新しい婚約者が出来ました。

第十六話 朝からどこへ行くのか

朝食の時間になり、マリオンが朝の支度にやってきた。

「ねえ、マリオン。オズワルド様はお仕事に行かれたのかしら」
「どうでしょう。従者のウィルさんが早朝に支度に行きましたけど」

仕事は邸の仕事かしら。

「リディア様、もしかして夕べも睡眠をとられてないのですか?…おかしくないですか?」
「大丈夫よ。心配しないでね」

マリオンが空っぽのポットに気付き聞いてきた。

呪いをかけられている自覚はない。
時間が戻る前にかけられた呪いは体がだるかったけど、今はあのだるさはない。

でも、寝れないのはやはりおかしい。

支度が終わり、朝食の為に食堂に行こうと一人歩いていると、階段下にオズワルド様とリンクスがいた。

もしかして、待っていてくれたのかと、ドキッとしたが、聞こえた二人の会話に愕然とした。



「カレンに会ってきた。贈りたい物があるから、プレゼントできる箱にリボンをつけてくれ。後でまたカレンの所に行く」


は?
カレン?
それは女の名前でしょ!

まさか、早朝から女に会いに行くか!
庭に別邸でもあるのか!
昨日、私を好きだと言ったのは何だったの!

段々ムカムカしてきた。
朝食に降りるのを止めすぐに部屋に戻った。
廊下でマリオンにすれ違うと、どうしたのか、聞いてきた。
表情に出してないつもりだったけどマリオンにはきっと、変な表情に見えたと思う。

「リディア様、どうされました?今部屋は換気で窓を開けてますよ」
「マリオン、すぐにリンクスを呼んで来てちょうだい。荷造りもすぐにしてね」
「は、はい……!」

ニッコリとマリオンに言うと、マリオンはひきつっていた。

部屋に戻り、ムカムカしながら、図書館から借りた本を両手で持ち、リンクスを待っているとすぐにやってきた。

「リディア様どうされました?」
「リンクスすぐに馬車を呼んで下さい。あと、この本をオズワルド様にお返し下さい」

リンクスは、はぁ、と言いながら受け取ろうとすると、リンクスの後ろからオズワルド様が出てきた。

リンクスについて来たのか!

「何処に行くつもりだ」
「実家に帰ります。お世話になりました」
「何故帰る。どうしたんだ?」

オズワルド様は、先程のリンクスとのカレンという女についての会話を知られていないと思っているのか、本当に不思議そうに聞いてきた。
そして焦っていた。

「愛想が尽きました」
「愛想が尽きるほどまだ一緒にいないではないか」

くっ、もっともなこと言いやがるわね!

「浮気する男は嫌いと言ったはずです」
「昨日聞いたな。それが何故こうなる? 大体、自慢じゃないが女に振られたことなんかないぞ」

モテ自慢か!

「では、初体験ですね!」
「何が初体験だ」

リンクスはオズワルド様の後ろで、顔を横に向け、初体験、と呟きながら笑いを我慢していた。

「先程の会話を聞きました。どうぞ、カレンさんの所に行って下さい!」

腕を組み、プイッと横を向くと、オズワルド様はリンクスと顔を見合わせ笑った。

何がおかしいのか私には全くわからない。

「意外と好かれていたようで安心したな」
「オズワルド様、先にネタばらしをした方がいいですよ。誤解されたままだとリディア様に捨てられますよ」
「それは困る」

何が困るだ!

「リディア、朝食は後にして先に図書館に行くぞ」

図書館で逢い引きか!

「行きません!私はお別れします!」
「レオン様の時みたいに見て見ぬふりをするか? まあ、俺はレオン様とは違うが」

オズワルド様の言葉に少し動揺した。
レオン様とアリシアが二人でいることを咎めたことも問いただしたこともない。
私が早くにレオン様と話し合うことがあれば違う結末があったのだろうか。

でも、そうしたら今、私はオズワルド様と婚約することができなかったのではと思った。
それは、嫌だな、と脳裏をよぎる。

オズワルド様の顔を見ると、疚しいことは無さそうに見える。

「昨日の言葉は本当ですか?」
「勿論本当だ。浮気ではないと証明できる自信もあるぞ」
「……まさか、カレンさんは男ですか?」
「違う! そんな趣味はない!」

では、なんだと言うのか。

「リディア様、とにかく図書館に行って下さい。ブラッドフォード家の秘密がわかりますから」

リンクスが、笑いを堪えて言った。

よくわからないまま、オズワルド様の言葉を信じ、二人で図書館へ行った。








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