とことわのその ― 獣と絡まり蔦が這い ―【加筆修正版更新中】
「んっ……」

閉ざしていた唇をこじ開けられ、舌が入ってきた。
ぬるりと生あたたかい、強引な舌。

色気のないわたしはまるでボクサーのように両手を拳にして、胸の高さで小さく構えてしまった。
邑木さんが鼻で軽く笑う気配を感じ、目を開いたままキスされていることを知る。

キスって、お互いが目を閉じてするものじゃないのか。

どんな顔をしていたらいいかわからなくて途方に暮れていると、握りしめている手をほどくように邑木さんの指が割り入ってきた。
ごつごつとした、存在感のある関節。

キッチンでそうされたときよりも、指はずっと熱かった。


ディープキスなんて、ひーくんと何回も何十回も何百回もしてきた。
それなのに、違う。
ひーくんの子猫がミルクを舐めるような、くすぐったいキスとはまるで違う。

ゆっくりと抜き差ししながら唇をなぞり、頬の内側や上顎を(えぐ)るように撫で回す邑木さんの舌。
ざらついたその舌は、やわらかな棘のようにわたしを刺す。

まるで、獣の舌だ。

「由紀ちゃん、舌だして」

「し、舌って……」

「べーって。舌、だして」

「な、なんで」

「由紀の舌が見たいから」

はじめて呼び捨てされた。
この(ひと)は計算でこうしているのだろうか。
本能でこうしているのだろうか。
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